芥川賞、朝比奈秋さんと松永K三蔵さんがダブル受賞
毎日新聞 / 2024年7月17日 18時2分
第171回芥川賞の選考会が17日、東京都内で開かれ、朝比奈秋さん(43)の「サンショウウオの四十九日」(新潮5月号)と松永K三蔵さん(44)の「バリ山行(さんこう)」(群像3月号)が選ばれた。
朝比奈さんは京都府出身。2021年に林芙美子文学賞を受賞し、22年に作家デビュー。その後、三島由紀夫賞、泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞を受賞している注目の新鋭だ。消化器内科の医師として、月に数度、非常勤で働くというもう一つの顔を持つ。35歳のころ、ふと小説のアイデアが生まれ、執筆を始めた。受賞作は結合双生児がテーマ。6、7年前に思い浮かび書き始めた題材だという。一つの体を2人が共有するという設定から、体とは誰のものか、意識や記憶はどこにあるのかを問う、意欲的な作品だ。
松永さんは茨城県日立市出身。21年、群像新人文学賞優秀作を受賞し作家デビュー。建築関係の会社に勤務しながら小説を執筆している。兵庫県西宮市在住。デビュー2作目となる受賞作は、自身も休日に出かけるという山歩きを題材に取り上げた。「バリ山行」の「バリ」とは、一般的な登山道とは違う「バリエーションルート」の略。主人公は会社組織や家庭で抱える不安、悩みを山で解消する。「バリ山行」を得意とする先輩社員を慕うようになるが、ままならない日常の中で、2人の関係性には変化が生じはじめる。
芥川賞選考委員・川上未映子さんの話
朝比奈作品は小説にしか表現できない難しい設定を準備して書こうとする文学的な野心が大きく評価された。極端な条件が前提になっているため、いくらでも深刻に書ける中で、明るさを持ってユーモラスに描くことに成功している。
松永作品は登場人物の造形や登山の描写に説得力があった。いくらでも奇をてらうことができる小説世界の中で、リーダビリティー(読みやすさ)が読者におもねったものではなく、書くべきものを地に足の着いた筆致で書いていた。
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