根室のコンブ干し、深刻な担い手不足 頼もしい助っ人に大学生
毎日新聞 / 2024年7月19日 12時30分
人手不足で水揚げしたコンブを干す作業もままならなくなりつつある北海道根室市の歯舞地区で、東海大静岡キャンパスの学生5人が泊まり込みで作業に当たるインターンシップ(就業体験)に参加している。無給ながら宿泊費や滞在費は不要で、漁業者の暮らしを味わいながら学生たちの人間形成にもつながるこの事業。一方で担い手不足に悩むコンブ漁家にとって大学生は頼もしい助っ人であり、新たな地域交流の糸口としても期待が高まる。
水揚げされたばかりのコンブを広げて干す作業が行われた18日。「思ったより長くて重たい。(広げて乾燥させるため)砂利を歩くのも大変」。そう話したのは、初めて作業を体験した人文学部3年の金子結愛(ゆうあ)さん(21)。午前10時の気温は26度で、連日30度を超える静岡と比べれば涼しいぐらいだが、額からは汗がほとばしる。
昨年に続いて参加した同3年、井尻真帆さん(20)は「水分を含んでいるので重たい。高齢の方が軽々とコンブを広げていて、私たちは若者なのに(情けない)」と話した。昨年は3日間だけだったが、今年は12泊13日と滞在期間が長くなった。「両手で4本持ったり、重ならないようにコンブを並べたり、たくさんのことを身につけたい」とも。
受け入れ漁家の一つで同市友知のコンブ漁業者、樫見賢信さん(50)は「人手不足なので、遠くから来てもらってありがたい」と感謝した。
慢性的な人手不足は10年ほど前からだ。温暖化の影響か、ここ数年は不漁が続き、収入の割に仕事がきついコンブ漁は担い手不足が深刻化する。樫見さんも「高3男子の末っ子からも『後を継がない』と言われている」と危機感を募らせる。
金子さんを受け入れ、3食を提供している妻、真奈美さん(51)は「以前は家族や知人ら11人でやっていたので、1人や2人増えるのは、全く問題ない」という。それどころか、「話し相手にもなる」と大学生の受け入れを楽しんでいた。
この日の作業に参加したのは金子さんも含めて7人と、労働力は足りていない。それでも、真奈美さんは「息子たちが巣立っていく中、若い子がいると活気があっていい」。昨年来た和歌山県出身の男子学生にコンブを送ると、秋にはミカン、夏には梅干しが届いたという。SNSでコンブ漁の現状を発信してくれたことも「ありがたい」といい、交流が地域に明るさをもたらしている。
一方、大学生にとっては、貴重な人生経験の場所となっている。「コンブ漁がどういうものか知りたい」と参加した金子さんは、コンブ干し初日の18日が21歳の誕生日。「私、人見知りで、話すのが得意ではありません。暗い性格を変えて明るくしたい」と打ち明けた。だが、笑顔でそう話す金子さんの顔にそんな気配はみじんも感じられない。住み込み型の就労体験は、新しい環境に溶け込む挑戦の場でもあるのだろう。
事業は、漁業の魅力を伝え、人手不足解消を目指す歯舞漁協の取り組み「渚泊(なぎさはく)」と、東海大の就労型インターンシップ制度を融合したモニタリング調査として実施。学生たちは約2週間、4軒の漁業者宅に滞在し、コンブの積み下ろしや裁断作業なども体験して31日に根室を離れる。【本間浩昭】
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