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クマ被害増加中…猟友会支部、駆除から異例の「離脱」表明 真意は

毎日新聞 / 2024年7月25日 6時30分

北海道乙部町で目撃されたヒグマ=乙部町で2024年3月20日午前10時43分、三沢邦彦撮影

 北海道奈井江町の道猟友会砂川支部奈井江部会が5月、ヒグマ出没時などに対応する町の鳥獣被害対策実施隊への参加を断った。クマの出没や被害が全国的に増え、自治体が対応に苦慮する中、対策の一翼を担ってきた猟友会の「離脱表明」は波紋を広げた。なぜなのか。奈井江支部の山岸辰人部会長(72)に真意を聞いた。【聞き手・横田信行】

 ――町内のクマの捕獲(駆除)数は2019、20、24年度各1頭、23年度3頭。6頭のうち4頭が奈井江部会によるものだ。

 ◆奈井江部会は町から助成金を受け取らず、クマを含めた有害鳥獣駆除を無理のない範囲で行っている。山沿いに通る高速道路が壁になり、住宅地にクマが入りづらいのか、町から出動の要請で記憶にあるのは、23年秋にゴルフ場に出没した時、報酬なしのボランティアで現場に駆けつけたくらいだ。

 ここ10年ほど、クマに関する出没を受けた見回りか箱わなに入ったクマの駆除を除いた町からの「駆除依頼指示書」は出ていない。19年度以降に猟友会が駆除した4頭は、いずれも仲間が山の中で遭遇し、駆除した事案だった。最近は山の中を10分も歩けばフンや痕跡を見かけるようになった。10年前と比べ、3倍ぐらい増えたと思う。人とクマの距離が近づいていると感じる。

 ――離脱表明の直接の原因は、町が4月下旬にヒグマ対策として設立した「鳥獣被害対策実施隊」への参加を要請したからか。

 ◆その通りだ。「実施隊」なんて聞いたことがなかった。参加の要請が来て初めて知った。しかも、町が13年に「隊員は猟友会砂川支部南部会(現奈井江部会)から町長が任命する」という条例を制定後、10年以上も放置していた。今年6月の町議会の一般質問で、三本英司町長は「条例制定前に砂川支部と事前協議した」と答弁したが、当事者なのに一切、相談がなかった。おかしな話だ。

 ――猟友会でクマを駆除するのと実施隊に参加することに何か違いがあるのか。

 ◆実施隊は、クマ出没時に見回るほか、箱わなで捕獲後の駆除が原則だと説明された。基本的な日当は4800円で、見回れば3700円、発砲すれば1800円が追加されるということだった。ただし、死骸の解体や処分場への運搬までやれと言う。

 見回りはクマと遭遇する恐れがあり、例えれば、米軍の特殊部隊と森の中で戦うようなもの。駆除後も重労働で、死骸は重く、わなから出すだけでどれだけ大変か町職員は分かっていない。報酬は、近隣の自治体を参考にしたそうだが、死骸の解体や運搬まで求めていなかったり、報酬と別に猟友会に助成金を出していたり、と自治体によって違うのを知らないようで失望した。これまでは実態としてボランティアだったが、業務として請け負うのであれば、責任感も変わってくる。奈井江町は、猟友会の活動に対する理解が低いと感じた。

 ――町にどのように返答したのか。

 ◆危険なうえに拘束時間も長い重労働なのに、時給換算すると、「高校生のアルバイト以下」。ハンターをバカにしているのかと思った。求めたのは、会員2人以上での対応やドローンの配備などの安全対策の充実だ。駆除後の対応は町の担当とし、報酬は緊急な出動は4万5000円、それ以外も1万5000円などと提案した。

 ――町の反応は。

 ◆町は「前向きに検討する」としたが、一向に具体化しなかった。会員は5人しかおらず、私を含め、他に仕事を持っている者もいる。仕方なく我々は5月18日付の文書で「要求に応えるのに人員的に難しい」と辞退を伝えた。その後、町は報酬の増額を表明する一方、厳しい財政事情などを理由に要望を受け入れられないというので、協議打ち切りを通告した。協議の再開も求められたが、信頼関係が崩れたので、「行司役」の仲介を条件とした。しかし、町長は拒否した。

 ――猟友会が自治体への協力を拒否するのは異例で、反響は大きかった。

 ◆猟友会は「狩猟愛好者の団体」だ。国や自治体の「クマ対策」への協力を義務付けられてはいない。公共の福祉のためにボランティア精神で協力してきたからか、待遇などがあいまいにされている。クマの捕獲、駆除は本来、どこがすべきなのか。行政は、自分たちがやるべき仕事を丸投げし、猟友会を都合のよい下請けと考えている。

 猟友会仲間の多くも「よくぞ言った」と応援してくれる。実施隊に参加しないが、従事者証を取り上げられたわけでなく、有害鳥獣駆除に対する姿勢はこれまでと変わらない。

 ――クマ対策が急務となる中、ハンターの確保や養成の必要性が高まっている。1990年に狩猟免許を取り、射撃指導員や技能講習指導員も長く務めてきたベテランハンターとして現状をどのように見ているか。

 ◆銃による捕獲は危険と隣り合わせだ。免許があればクマを自由に撃てるわけでもない。市街地での発砲ができないなどと厳しい制約があり、技能、知識、体力や時間的余裕も必要だ。猟友会の会員は「銃を扱えるだけ」で即戦力とは言えない。ましてや、クマを山の中で追って仕留められるハンターは道内でも数人しかおらず、技術や経験をうまく継承できているとも思えない。山や地域の事情に詳しい地元のハンターも同じだ。

 奈井江部会も70代3人、60代1人、30代が1人。高齢化が進んでいることは明白で、行政の「猟友会任せ」はいずれ破綻する。クマが人間の生活圏のすぐそばまで来ており、農業が脅かされて被害も増えている。国、道、市町村、地域住民が一体となって対処しなければならない環境問題だ。町はそのような視点がなく、その場しのぎ。安定的、持続的に対処できる態勢を提案する気がなかった。当事者意識に欠けているのが残念だった。

報酬基準なく、自治体ごとにばらつき

 ヒグマ対策にあたる猟友会、ハンターなどへの報酬に関して、国や道は基準を設けていない。このため、自治体と地元猟友会などが協議して報酬額を決めるのが一般的だ。ただし、クマの出没や被害の頻度は地域で異なる。「ボランティア」で協力する部分も少なくないため、報酬はばらつきが大きい。

 道猟友会砂川支部奈井江部会は6月、道内全71支部を対象に報酬額に関する調査を実施した。調査によると、クマが出没した際に行う巡回での報酬は、日当制の自治体で1000円から2万6900円▽時給制は1000から5000円▽ヒグマを駆除した場合は1頭3000円から13万円――と差があった。地域別でみると、報酬額が10万円以上は後志管内が目立ち、渡島、桧山、上川、オホーツク管内でも5万円以上がみられた。

 また、クマ以外の有害鳥獣駆除を含めた一括契約にしたり、自治体だけでなく、農協などから助成金を受けたりし、報酬が地域でまちまちな実態も明らかになった。

 被害拡大を受け、道内で報酬増を検討する動きも出ている。2023年5月に朱鞠内湖(幌加内町)で釣り中の男性が襲われて死亡した。クマ対策強化を求める声が幌加内町内外で強まり、町は猟友会に対する日当を6800円から1万5000円に引き上げた。今後も被害が増えれば、報酬を増やすことを検討するという。

 狩猟者による捕獲は狩猟と有害鳥獣捕獲という2種類。狩猟は免許を持ち、狩猟者登録していれば狩猟期間(10月~翌年1月)にでき、実施方法は銃のみ。一方、有害鳥獣捕獲は、被害などを防止する目的に、一年の必要と認められた期間に銃とわなで実施できる。自治体や農協などからの申請を受けて知事が許可して許可証と従事者証を渡す。自治体が指示書を示す。捕獲後は基本的に殺処分される。

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