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「ちっぽけな力でも」 脳性まひの72歳が詩に込めた夢への道筋

毎日新聞 / 2024年7月31日 8時30分

特別製のウクレレ台で練習を続ける遠藤悦夫さん(左)と講師の川口コウスケさん=大阪市北区で2024年6月30日午後1時1分、稲生陽撮影

 障害を持った人がつづった詩に曲を付け、ステージで歌う第49回わたぼうし音楽祭(奈良たんぽぽの会主催、毎日新聞社、毎日新聞社会事業団など後援)が8月4日、奈良県大和郡山市の「DMG MORI やまと郡山城ホール」で開かれる。今年は315編の詩が寄せられ、選ばれた8編の詩から303曲もの歌が生まれた。当日に演奏される入選作の作詩者や作曲者に思いを聞いた。

 小さなウクレレからピーンと意外に強い音が鳴った。はじくのは普通のピックではない。裁縫用の指ぬきを樹脂で加工した特製品だ。しかもピックを操るのは左足の小指。童謡の「きらきらぼし」を演奏してみせた。

 情熱的な言葉を重ねた作品「ちっぽけな力」を作詩した遠藤悦夫さん(72)=大阪府藤井寺市=は、1歳の頃の高熱による脳性まひで今も手足が不自由だ。舌も回りづらい。それでも、相手に伝わるよう話し続ける。足の指で文字を書き、将棋やパソコンの操作もできる。諦めない粘り強さが最大の武器だ。

 うまく話せないことが本当につらかったという。同じ重度障害者でもスムーズに話す人はいるのに、自分はうまく伝えられない。そこで始めたのが、一般財団法人「たんぽぽの家」(奈良市)が1980年代に始めた障害者による「語り部活動」への参加だ。89年に始まった「わたぼうし語り部学校」には1期生として参加。自分なりに考えた話の伝え方が評価され、誘いを受けて応募した「わたぼうし文学賞」では創作童話として入選も重ねた。入選作はそれぞれ絵本になり、出版もされた。

 背中を押してくれたのは、母の照枝さん(2010年に83歳で死去)だ。最初に佳作に入選した91年は「何や佳作か」、翌年に銀賞を取ると「何や銀かいな、もう1個上や」。その翌年、目標だった金賞に輝くと「1回だけか?」――。それでも、その厳しい励ましが遠藤さんの原動力になった。「母はめっちゃ怖くて、何をしてもほめてくれない。でもいつも心配してくれて、自分が何かができるようになると喜んでくれた。おかげで今は1人暮らしができている」と感謝を口にする。今回の詩には、たとえ障害があり力が弱くても、恐れずに進めば、夢の実現につながるとの思いを込めた。

 わたぼうし音楽祭では応募作から選ばれた詩ごとに全国から曲が寄せられ、審査員が全ての曲を繰り返し聞いて入選作を選ぶ。公平を期すために作曲者名は伏せて審査する。

 その中で今回、遠藤さんの詩につける曲として選ばれたのは、7年前から遠藤さんにウクレレを教えるギター講師、川口コウスケさん(31)=大阪市西区=による壮大なテーマ曲だった。「詩を見て応援しようと作曲した。ギター教室には、難聴者や片目を失明した生徒もいる。苦しさを乗り越えていくメッセージを伝えたかった」と話す。

 川口さんの曲を聴いた遠藤さんは「イメージ通り」と笑顔を見せ、「諦めないことが何より大事。工夫して、考えて、できることを積み重ねていけば、きっと大きなことができるはず」と、ひときわはっきりした言葉で語った。【稲生陽】

「ちっぽけな力」

ちっぽけな力でも 生きる意義がある

諦めずに その意志を示そう

困難を恐れず 自らの道を進もう

耳を澄ませば 友達の声が聞こえる

舞上がれ 希望よ

手を挙げて 空高く

心を燃やし 力を解き放て

ちっぽけな力でも

大きな夢を叶(かな)えよう

ちっぽけな力でも 大きな意味がある

みんなの笑顔で 空も海も大地も輝く

周りの人々と共に 今を生きている

全力で未来へ進もう 自らの道を

ちっぽけな力でも 生きる価値がある

涙で作った湖が 美しい光を放つ

諦めずに その決心を示そう

困難を恐れず 希望の明日を追い求めよう

手を広げて 空へと

心を開き 力を解き放て

大きな夢を広げよ

ちっぽけな力 大きな夢を

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