「いつも一緒に」 愛娘がつなげた新たな出会い 相模原殺傷8年
毎日新聞 / 2024年7月26日 19時39分
相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者19人が殺害された事件は26日、発生から8年が経過した。「悲しみは何も変わらない。娘は心の中にいつも一緒にいる」。犠牲になった美帆さん(当時19歳)の母親(60)は癒えることのない悲しみを抱きつつ、新たな出会いに愛娘のぬくもりを感じて生きている。
園ではこの日、神奈川県などが主催する追悼式があった。奥津ゆかりさん(55)が園の利用者を代表して「天国からやまゆり園のみんなを見守ってください」と犠牲者に語りかけた。
式には遺族や園の利用者ら約90人が参列した。しかし、美帆さんの母親の姿はなかった。「ひっそりと娘をしのびたい」。式には一度も参加していない。
「7月病」。母親は今でも7月が近づくと事件の記憶を鮮明に思い出し、頭が痛くなる。動けなくなるほど体調が悪くなる日もある。事件からしばらくは「26日」を意識してしまうため、カレンダーも見られなかった。
3歳で重度の知的障害を伴う自閉症と診断された美帆さんは、言葉を話せなかった。それでも、いつも笑顔で周囲に愛嬌(あいきょう)を振りまいた。「スッと寄ってきて腕を組んできた。そのぬくもりが忘れられない」
事件後、しばらくしてから知的障害がある人たちとの交流を始めた。よく訪れるのがNPO法人「ぷかぷか」が横浜市で運営するパン屋やカフェ。ぷかぷかは「障害のある人も無い人も一緒に生きていけば社会は良くなる」との理念を掲げ、障害者を採用している。
店内に入ると「ぷかぷかさん」という愛称で親しまれる障害者のスタッフが満面の笑みで迎えてくれる。美帆さんの12月の誕生日には、大好きだったハンバーグを「誕生日メニュー」として出してくれた。美帆さんの好きなアイドルの曲をみんなと一緒に踊ることもある。「美帆を今も近くに感じることができる」。ふさぎ込む日常に楽しい思い出がよみがえってきた。
2018年には、日航ジャンボ機墜落事故(1985年)の慰霊登山に赴いた。さまざまな事件や事故の遺族が参加しており「何も話さなくても気持ちを分かってもらえる。美帆が新しい出会いを与えてくれている」。そう思うと心が少し軽くなった。
気がかりなのは、社会が美帆さんのことを忘れてしまうことだ。「人は2度死ぬ」。1度目は肉体が滅びた時、2度目はその人のことを知っている人が誰もいなくなった時。だからこそ、差別思想を持つ植松聖死刑囚(34)の裁判では、19人の犠牲者の中で唯一、実名での審理を望んだ。
園で追悼式が行われた26日。式が終了してから数時間後、母親は美帆さんの兄(29)とともに園を訪れた。「美帆ちゃん、来たよ」。心の中でそう呼びかけると、美帆さんら犠牲者の名前とヤマユリが刻まれた「鎮魂のモニュメント」に花束を手向け、静かに手を合わせた。【宮本麻由】
相模原障害者施設殺傷事件
神奈川県立の知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で2016年7月26日未明、元同園職員の植松聖死刑囚が10~70代の利用者19人を殺害し、職員を含む26人に重軽傷を負わせた。横浜地裁は20年3月、殺人罪などで死刑を言い渡した。弁護人は判決を不服として控訴したものの、控訴期限前に植松死刑囚自ら取り下げて判決が確定した。植松死刑囚は22年4月に同地裁に再審請求したが、棄却された。
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