車椅子を利用する当事者が考える「合理的配慮」のかたち
毎日新聞 / 2024年7月29日 7時1分
今年4月に改正障害者差別解消法が施行され、障害者への合理的配慮が民間事業者にも義務づけられた。合理的配慮を考える上で、どのような視点が必要なのか。障害者の自立支援をする茨城県つくば市の市民団体「つくば自立生活センター『ほにゃら』」事務局長で、自身も車椅子を利用する斉藤新吾さん(49)に聞いた。
――ほにゃらは、どのような活動をしていますか。
◆ほにゃらは障害者による障害者のための団体です。名前は、余白を表す「ほにゃらら」という言葉から取り、自立した生活の自由を表現しました。障害があっても親のサポートに依存せず、どのような生活を送りたいか自ら決めて、地域で生きていけるように支援しています。
具体的には、アパートを一緒に探したり、生活する上での相談に乗ったりしています。介助者を派遣する派遣事業も行っています。月1回利用する人から毎日利用する人までさまざまですが、利用者は現在約40人います。
――合理的配慮が民間事業者にも義務づけられたことをどのように受け止めていますか。
◆例えば車椅子利用者は食べたいもので店を選ぶのではなく、スロープがあったりトイレが広かったりといった車椅子で利用できる条件で店を選んでいます。そんな状況が変わることを僕らはずっと求めています。合理的配慮が少しずつ浸透して、変わってほしいと願っています。
――つくば市には合理的配慮のための補助金を事業者に交付する制度がありますね。
◆障害者差別解消法が施行された2016年に兵庫県明石市が始めた同様の取り組みを評価していました。スロープを一つ取り付けるにしても10万円かかるケースがあるなど事業者にとって負担が大きく、自治体に音頭を取ってもらいたいと考えていたからです。
つくば市長選・市議選に合わせて、ほにゃらが提案し、18年に県内の自治体で初めて補助金制度が実現しました。補助金を活用してスロープが導入された店もありますが、もっと制度の活用が広がってほしいと思っています。また、他の自治体でも同様の制度ができたらいいと考えています。
――障害者が合理的配慮を求める声を上げることは難しいですか。
◆障害者は断られる怖さを知っています。僕自身、車椅子に乗ったまま入店するのは無理だと断られたり、バスに乗りたいのに運転手に無視されたりしたことが過去にあります。
そんな経験をすると、自尊心を傷つけられます。それを克服し、自らの権利を主張しつつ事業者との間で妥協点を見いだすためには、相当なコミュニケーション能力が求められます。
障害者にそこまで求めるのは酷だと思うかもしれません。けれども、私自身は苦労してでも取れるものは取った方がいいと思っています。
事業者にとっても、障害者と対話した上で、できることとできないことをはっきり伝える力が求められます。手助けするため、自治体には研修の機会を設けてほしいと思っています。
――権利を主張する障害者がネット交流サービス(SNS)などで批判される現状をどう見ていますか。
◆本当に怖いことですが、世の中が変わっていく過渡期にはどうしても衝突が生まれるのだと思います。最初のうちは、障害者が適切に合理的配慮を求めることや、事業者が完全にそれに応えることができなくてもいい。成功と失敗をくり返すうちに、お互いの理解が進めばいいと考えています。
例えば、ホームと車両の隙間(すきま)を狭くして車椅子でも乗り降りしやすいように整備したり、建物に入るためにスロープをつけたりすることは、ベビーカーを押している人や高齢者にも喜ばれます。
合理的配慮が進んで、障害者が社会で生きやすくなるということは、誰もが生きやすい社会になるということだと思います。【聞き手・原奈摘】
さいとう・しんご
1975年生まれ。小学生の時に脊髄(せきずい)性進行性筋萎縮症を発症。筑波大在学中に24時間介助を受けながら1人暮らしを始める。2001年にほにゃら設立。現在は市民団体「障害×提案=住みよいつくばの会」元世話人として、つくば市に政策提案している。
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