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稽古場に響く足音と息づかい 手話パフォーマンス劇団の「表言」

毎日新聞 / 2024年7月31日 11時30分

音楽祭での公演に向け、稽古(けいこ)を続ける「空の旅団」のメンバーら=奈良市学園南3で2024年6月29日午後4時35分、稲生陽撮影

 8月4日に開かれる「わたぼうし音楽祭」(奈良たんぽぽの会主催、毎日新聞社など後援)では、歌の入選者以外にも障害を持つパフォーマーらがそれぞれの演技を披露する。ゲスト出演する劇団「空(そら)の旅団(たびだん)」は、県立ろう学校(大和郡山市)の卒業生を中心に2021年に結成された手話パフォーマンス劇団だ。手話と体の動き、字幕による「表言(ひょうげん)」を掲げ、全国で毎年5~6回の公演をこなしている。

 静かな会議室に、床をたたく団員の足音と息づかいだけが響く。音楽祭に向けた旅団の稽古(けいこ)。やり取りの多くは手話で、日本語の語順で文章を組み立てる「日本語対応手話」よりも短い表現で伝え合う。手話で交わされる軽い冗談に、時折笑い声が上がる。

 旅団は、同校演劇部の顧問だった綿井朋子さん(62)=高取町=が、15~18年度に卒業した元部員らと結成。同校は鳥取県が毎年開いている「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」で毎年上位に入る強豪で、手話を言語としてもっと広めたいと一般向けの劇団を作ることにした。現在は耳の聞こえる団員も所属し、稽古中は手話と声の両方で指示が飛ぶ。慣れた団員同士では、短い手話と表情などで意思をイメージとして伝える「日本手話」で軽妙にやり取りしている。

 耳の聞こえない団員の多くは、小学校に上がる頃に世界に音があり、自分だけが聞こえないことに気付いたという。南部拓馬さん(26)=御所市=は周囲が笑顔で盛り上がる中、一人取り残されることにかつては悩んでいたと振り返る。耳は1、2歳ごろに急に聞こえなくなった。「親族でも聞こえないのは自分だけ。手話サークルで学んでくれた母とはやり取りできるけど、家族や親族の集まる機会がつらかった」という。

 一方で聞こえることが前提の社会で、音へのあこがれは断ち切れない。男性アイドルのコンサートに何度も通っている井上綾さん(24)=奈良市=は、好きなアイドルがマイクを握っても歌もMCも聞こえないことがつらいという。楽しめるのはもっぱらダンスのみ。「手話があれば周囲と話すことはできる。でももし聞こえたなら、と思うことはある。電話でのおしゃべりや音楽鑑賞はあこがれです」と手話で話した。 綿井さんは「手話の劇団として参加し、音楽祭を盛り上げたい。そして聴衆が手話に関心を高めるきっかけになれば」と話す。

  ×  ×

 わたぼうし音楽祭は8月4日午後2時、大和郡山市のDMG MORI やまと郡山城ホールで開かれる。親子で歌の審査にあたる「親子審査員」も50組100人を募集している。問い合わせは音楽祭事務局(0742・43・7055)。

【稲生陽】

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