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ミャンマーから福岡まで28時間 ゾウ4頭「輸送大作戦」の舞台裏

毎日新聞 / 2024年7月31日 16時30分

貨物専用機で北九州空港に到着したアジアゾウ。この後、福岡市動物園に陸送された=北九州市小倉南区で2024年7月30日午前7時41分、上入来尚撮影

 福岡市動物園に30日、ミャンマーからアジアゾウ4頭が到着した。園では飼育していた雌のアジアゾウ「はな子」が2017年に死んで以来、ゾウ不在時期が続いており、園は歓迎ムードに包まれた。だが、大型動物4頭を一度に無事に運ぶことは簡単ではなかった。直線距離で約3800キロ離れたミャンマーのゾウキャンプから、陸路と空路で約28時間。生き物だけにどんな不測の事態が起きるか分からないなか進んだ「輸送大作戦」の舞台裏とは。

 30日午前7時15分。ゾウ4頭を載せた大型貨物機「ボーイング747」が北九州空港(北九州市)に降り立った。ほどなく機体後部の貨物室の扉が開くと、最初に子ゾウが入った檻(おり)(高さ2・5メートル、幅1・4メートル)がリフトで降ろされた。空港で待機していた福岡市職員に「子ゾウが一番元気です」と伝えられた通り、トラクターで檻を引っ張り、駐機場を移動する途中も外の世界に興味津々の様子。網状になっている檻の上部からは持ち上げた鼻先がのぞけた。

 4頭は、22歳と3歳の雌の親子と、14歳の雄と12歳の雌。ミャンマー中部のバゴー地域にあるゾウキャンプで飼育されていた。

 輸送計画はこうだ。四つの檻にゾウを1頭ずつ入れてキャンプを29日午前10時ごろ出発。その後、陸路でヤンゴン国際空港に向かい、大型貨物機に載せかえ、給油のためタイのスワンナプーム国際空港を経由して北九州空港から入国する。さらに再び陸路で、福岡市動物園を目指す。費用は約9000万円を計上した。

移送に向けた訓練は1月から

 輸送に向けたプロジェクトが始動したのは1月。まずは移動用の狭い檻に慣れさせる訓練から始まった。ゾウは頭が良く神経質でストレスを抱えやすい動物だ。国内の動物園間で移動する際も、檻を糞(ふん)のにおいで充満させたり食べ物を置いたりして、恐怖感を取り除く必要がある。

 ここで大きな役割を果たしたのがゾウ使い「マフー」だ。キャンプではゾウ1頭につきマフー1人が寝食を共にしながら世話をする。マフーは普段、ゾウに乗って重い物を運ぶ仕事をしたり、観光客を乗せたりするが、今回の輸送訓練にも協力してくれた。数カ月かけて4頭そろって檻に入ることに慣れさせた。

 いざ移動するとなると、何が起こるか分からない。国内でゾウ4頭を一度に運んだのは、ミャンマーから札幌市円山動物園に輸送した2018年11月以来。希少動物の保護が叫ばれ、ゾウの取引が減った今日では大がかりな輸送はほとんどなくなった。ゾウに何かあれば、国内外から大きな批判にさらされる可能性もある。

リスクがある大型動物の移送

 日本動物園水族館協会(JAZA)の顧問で、動物輸送に携わった経験が豊富な成島悦雄さん(74)は「動物園にとって大型動物の移動は失敗の許されない一大プロジェクト。だが、移動中に動物が死んでしまうことは過去に複数回起きている」と強調する。

 22年4月には1歳8カ月の雌のキリンが、神戸市立王子動物園から繁殖目的で岩手サファリパーク(岩手県一関市)に向かう途中で死んだ。今年6月には、よこはま動物園ズーラシア(横浜市)から台湾に繁殖のため空輸中だった雄の2歳のマレーバクが「熱疲労」と呼ばれる高熱障害で死んだ。ストレスがかかる移動は、動物にとっては命がけだ。

 最も気を使ったのは水分補給だ。暑さに強いアジアゾウとはいえ、機内の滞在時間が9時間に及ぶなか水分を小まめに取る必要がある。移動中はミャンマー産のサトウキビを1頭当たり30キロ準備し、同行したマフーが少しずつ与えた。

 近年は動物が快適に暮らせる環境をつくる「動物福祉」の考え方が浸透し、移動中も動物の苦痛を軽減させることが絶対条件となっている。当初の計画では、検疫や通関、積み替えなどで北九州空港に滞在する時間は4時間を予定していたが、気温が高い日中の移動に備えるため余裕を持って5時間半に変更。陸路で輸送する際も、熱中症対策として、檻の天井と周囲に氷柱を敷き詰め、トラック内の気温の上昇を抑えた。

出発から28時間 健康状態に異常なし

 キャンプを出発して約28時間後の30日午後2時、福岡市動物園に到着。巨大なクレーンでゾウ舎の出入り口に4頭のうち、まず親子ゾウの檻が降ろされた。2頭が檻から出ると、子ゾウは母ゾウの隣にぴったりと付き、一緒にスイカを食べたり、水を飲んだりしていた。他の2頭も、無事にゾウ舎に入り、健康状態に問題はないという。

 移動以外にも、来園までの道のりは平たんではなかった。当初は22年春の受け入れを計画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大やミャンマー国内の軍事クーデターで2年延期に。今年に入っても、コロナ明けの貨物機需要の高まりで、直前になってチャーター機が確保できない状況に陥るなど、何度も日程や時間の変更を余儀なくされた。

園長「出発からずっとハラハラ」

 一夜明けた31日朝に報道陣の取材に応じた福岡市動物園の川越浩平園長は「飛行機が飛ぶところから園に到着するまでずっとハラハラしていた。園で檻から出てきたゾウを間近で見た瞬間は本当に感動したし、元気そうに歩いてすぐにエサを食べたのでホッとした」と胸をなで下ろした。

 4頭が新居に慣れるために静かな環境が求められることから、ゾウ舎の囲いの外から中が見える場所に遮蔽(しゃへい)物が取り付けられる。一般公開は10月以降だが、園内の高台からはゾウが運動場を雄大に歩いている姿が見られるかもしれない。高島宗一郎市長は「7年間の空白期間を経て、ついにやって来てくれた。子ゾウは本当に可愛くて、絶対に園の人気者になってくれるはずだ。子どもたちがゾウから自然環境を考えるきっかけになれば」と語った。【竹林静】

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