忘れられない被爆体験、絵画で伝える 九州産業大生の作品に涙
毎日新聞 / 2024年8月3日 9時0分
福岡市原爆被害者の会による「被爆体験絵画プロジェクト」の活動は今年2年目を迎え、九州産業大(同市東区)芸術学部芸術表現学科の学生3人が証言者3人の体験を絵画にした。参加した学生たちは「戦争や平和をより身近に感じることができた」と話し、被爆者は「当時のことが鮮明に思い出される」と完成した絵画に見入った。
プロジェクトは、被爆者らが証言活動をする際に言葉では伝わりにくい場面や状況も絵画なら伝えられるのではと、同会が大学側に依頼したことがきっかけで始まった。参加したのはいずれも3年で21歳の東陽音(はるね)さん、松野美月さん、浦川結衣さん。
東さんは、プロジェクトの発起人でもあり長崎市内で被爆した松本隆さん(89)の絵画を担当。爆心地から約3・5キロ地点で、当時10歳だった松本さんが見た「大きな雲が迫ってくる」瞬間を再現した。松本さんによると、原爆が投下されて間もなく見た雲には赤や紫などの色があり、東さんは長崎原爆資料館で雲に関する資料を見るなどして、松本さんの記憶に残る雲の色や形の再現に努めた。また「雲に線を入れ動きを付けることで、迫り来る雲の恐ろしさも表現した」という。
松野さんは、釜崎照子さん(86)が荒野となった長崎市内で目に焼き付けた「大八車で死体が運ばれていく光景」を再現。釜崎さんの瞳に映った「恐怖」を緻密に描いた。浦川さんも広島市内で被爆した森律子さん(85)の依頼を受けた。ガラスの破片が体に突き刺さって血だらけになりながらも、家屋の下から助け出された森さんを凜とした表情で見つめる母親の姿を絵画にした。
完成した絵画は7月31日、学生から証言者にお披露目された。松本さんは「雲が覆いかぶさるように迫ってきて『死ぬんじゃないか』と恐怖を感じた。絵を見て当時の記憶がよみがえる」と感慨深げに絵を見つめた。釜崎さんも「私にとって忘れられない出来事を描いてくれて感謝している」と話し、森さんは「母は気丈な人で、血だらけになってもしっかりと娘を見つめる表情がよく描かれている」と涙を流した。
絵画は8月4~11日に市民福祉プラザ1階(福岡市中央区)で開催される「79年目の原爆展」で展示され、同9日には学生と証言者による座談会も予定されている。【日向米華】
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