袖の長さまでこだわり 90歳被爆者の体験、高校生が紙芝居動画に
毎日新聞 / 2024年8月4日 19時19分
原爆で家族、親族ら8人を亡くした長崎市の被爆者、松尾幸子さん(90)の体験を、同市の活水高校の生徒が紙芝居にして動画を作った。動画は7月下旬から投稿サイト「ユーチューブ」で公開されている。松尾さんは修学旅行生らに体験を語ってきたが、昨年から体調不良が続き、ほとんどできなくなった。「自分ができない証言を、高校生が代わりに紙芝居で伝えてくれている」と喜ぶ。
松尾さんは国民学校5年の11歳の時、爆心地から約2キロ離れた山の中腹にある小屋に避難中に被爆。姉は爆心地から約700メートルにあった自宅の下敷きになって焼け死に、父も体に斑点が出て高熱に苦しんで被爆から19日後に死亡するなど、一緒に暮らしていた家族、親族ら計20人のうち8人を亡くした。
紙芝居動画は、被爆80年となる2025年に向けて被爆証言の記録・公開に取り組んでいる被爆者団体「長崎原爆被災者協議会」(被災協)が制作を依頼。活水高平和学習部の2年生4人が中心となって、5月から作り始めた。松尾さんから2回にわたって体験を聞き取り、構成を考え、絵を描き、7月下旬に23枚の作品を完成させた。
タイトルは「わたしからあなたへ」。原爆投下前の暮らしから始まり、被爆時の様子や、戦後もさまざまな病気に苦しんできたことなどを伝える。終戦直後に父が亡くなった時のことを「その時に初めて悲しくなり、声を大きく上げて泣きました」と振り返り、最後に「あの過ちを二度と繰り返してはいけない」という松尾さんのメッセージを紹介する。英語版も公開した。
絵は柔らかいタッチで描かれ、細部にこだわっている。絵を担当した2年の島田朱莉(あかり)さん(16)は「初めは松尾さんたちの服装を半袖で描いていたが、『戦時中はけがをしないように長袖を着ていた』と聞き、修正した。紙芝居をきっかけに、次の世代や海外の人に、平和のためにできることを考えてもらいたい」と語る。2年の元川真理子さん(16)は「紙芝居を通して、今ある日常が本当に幸せだと気付いてくれれば」と願う。
松尾さんは「私たちの時代は被爆者本人の証言で体験を伝えてきたが、若い人には若い人の伝え方がある。紙芝居動画でも私が言いたいことが十分に伝えられている」と活用に期待する。
動画はユーチューブの被災協のチャンネルで視聴できる。【尾形有菜】
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