「完全なる終末兵器の廃絶を」 長崎平和式典、国連事務総長あいさつ
毎日新聞 / 2024年8月9日 12時40分
米軍による長崎への原爆投下から79年。長崎市の平和公園で9日、平和祈念式典が開かれた。国連の中満泉事務次長が代読したアントニオ・グテレス事務総長のあいさつは次の通り。
◇
長崎が、1発の原子爆弾によって焼き尽くされてから、79年がたちました。
その恐ろしい大惨事を乗り越えられた皆さまにとって、当時の記憶は、今でもなお、決して色あせることはありません。
ニューヨークの国連本部には、原爆投下後に、長崎のカトリック教会で発見された、聖アグネス像が置かれています。この銅像から、当時の生々しい惨劇の記憶を垣間見ることができます。
爆発によって像の背面は、想像を絶する熱線と放射線で黒焦げに焼きただれており、これらの兵器がいかに残忍な力を持っているか、残酷なまでにはっきりと表しています。
しかしこの街が、灰の中から今日の活気に満ちた国際都市に生まれ変わったのと同じように、この悪夢を生き延びた人々は、より良い、そしてより平和で安全な世界を実現するための礎と活力を与えてきました。
皆さまの力強い姿に、当時起きたことを心に留めておくだけではいけないと、私たちは痛感させられます。
私たちは、あの壮絶な出来事から学んだ教訓を、実際に行動で示さなくてはなりません。
そうすることによって、私たちは犠牲者の方々を悼み、敬意を表すことができるのです。
私たちは、長崎の皆さまの不屈の強じんさに、心からの敬意を表します。
そして、この惨劇を受けながら、私たちを核のない世界に向けて導いてこられた、被爆者の皆さまの勇気に、心から感謝の意を表します。
今日、長崎は、若い世代も一緒に、より平和な世界の実現を追い求めるために世界各地から人々が集まる街です。
国連は、皆さまの声に寄り添えることを、誇りに思います。
核兵器を廃絶することは、私たちの軍縮における最優先事項です。
ここで起きた惨劇を二度と許してはなりません。
しかしながら、80年ほど前の教訓が、いまだに生かされていないことを、私は心配しています。
世界ではますます分断が進み、信頼が低下しています。
核兵器と核による威嚇が、強制のツールとして、再び姿を現しています。
また、それらが国家安全保障戦略の中心に据えられ、人類を破滅の危機にさらしています。
こういった脅威に直面する中、被爆者の方々に勇気をもらい、国際社会は声を一つにし、完全なる終末兵器の廃絶を強く訴えなくてはなりません。
核のリスクをなくす唯一の方法は、核兵器を廃絶することです。
そして私たちは、軍縮を実現するための新たな解決策を必要としています。
来月ニューヨークで開催される「未来サミット」は、各国が、多国間主義、持続可能な開発、そして平和に向けた取り組みを今一度新たにし、実行可能で将来を見据えた「未来のための協定」を採択する重要な機会となります。
軍縮、そして核兵器のない世界の実現は、これらの取り組みの中心に据えられなければなりません。
長崎と広島の街、そして被爆者の皆様にとって、これは何にも代え難い、必ず達成しなくてはならないことなのです。
2024年(令和6年)8月9日
国際連合事務総長 アントニオ・グテレス
(中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表が代読)
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