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空飛ぶクルマ 専門家が「万博で商用運航しなくていい」という理由

毎日新聞 / 2024年8月12日 14時0分

試験飛行するドイツのボロコプター社製の空飛ぶクルマ=大阪市此花区で2023年12月、梅田麻衣子撮影

 2025年大阪・関西万博の目玉の一つとされる「空飛ぶクルマ」。機体開発や安全認証の遅れなどを背景に、一部事業者が万博ではデモンストレーション飛行に限ると表明。運賃を得て客を乗せる「商用運航」の実現は不透明な状況となっている。

 しかし、国内外の空飛ぶクルマに詳しい中野冠(まさる)・慶応大元教授(システム工学)は「商用運航にこだわる必要はない」と指摘する。来場者に未来の交通システムのデモンストレーションを見せるだけで十分との主張だが、そこには安全性の他にも、いくつか理由があるという。

 ――万博を運営する日本国際博覧会協会や協会副会長の吉村洋文大阪府知事らが商用運航を目指してきましたが、複数の事業者はデモ飛行にとどまるとの見通しを明らかにしています。

 ◆機体の安全性を確保するための認証が遅れているので、やむを得ないでしょう。たとえ実用化が数年遅れるとしても、将来普及させるためには、墜落するような事故は絶対に起こしてはなりません。国は認証を無理に早めず、万博ではデモ飛行ができれば十分だと思います。

 ――デモ飛行では万博で飛ばす意義が失われませんか。

 ◆多数の国が出展する万博だからこそ、複数の国の機体が同時に飛び交う光景が見られるのです。それを実現するには、航空管制の技術が必要です。複数の機体を同時に飛ばして管制すれば、世界で初めてのことになります。来場者が「こういうものが世の中を変えていくんだ」と認識する機会になればよく、商用運航にこだわる必要はないのではないでしょうか。

 ――一方で、商用運航を期待する声も根強くあります。

 ◆仮に万博で商用運航できたとしても、1日平均約15万人を見込む来場者に対し、機体数は少なく、1機に乗れるのもせいぜい数人です。また、事業者が黒字化しようとすれば、相当高額な料金を設定することになるでしょう。つまり、大半の人は乗れず、地上から見る形になります。むしろ商用運航しない方が公平で、万博という場にふさわしいのではないでしょうか。

 ――吉村知事は以前、「近未来のSF映画に出てくるような、空飛ぶクルマが自由に行き交う世の中を大阪で実現したい」と話していましたが、イメージと現状にはギャップもあるようです。

 ◆たとえデモ飛行であっても、万博後に運賃をもらって客を運ぶ「エアタクシー」の実現につながる可能性があります。商用運航よりも、未来の交通システムを実感できる意義を周囲が知事らにしっかり伝え、協会もそうした情報を発信する必要があるでしょう。

 ――安全性に話を戻しますが、認証の問題が開発に影響した例はありますか。

 ◆航空機でいえば、三菱重工業が開発を目指したジェット機「MSJ(三菱スペースジェット、旧MRJ)」があります。08年から開発が始まりましたが、安全性を認める「型式証明」を取得できず、同社は23年に事業から撤退しました。国家プロジェクトだったこともあり、いかに安全認証をクリアするのが難しいか分かります。

 空飛ぶクルマは、垂直離着陸する民間初の旅客用飛行機となります。長年開発が続いてきましたが、米配車サービス大手「ウーバー」が16年に空飛ぶタクシー事業の構想を掲げて加速しました。欧米のほか日本や韓国など国家だけでなく、企業もロードマップ(行程表)を作って実現を目指してきました。

 万博での運航を目指すドイツのボロコプター社も17年には「19年の認証取得を目指す」と表明していましたが、1年ずつ先送りとなり、既に5年が経過しています。

 ――大きなイノベーション(技術革新)なので、安全認証には相当な時間がかかるんですね。

 ◆飛行機やヘリコプターでも、新たな機体を開発し、安全が証明されるまでに10年以上かかることが多いです。空飛ぶクルマを巡っては、海外の規制当局から「10億回に1回しか乗客の死亡につながる重大事故が起きないというレベルで安全性を確保しなければならない」との案も出されたほどです。日本も認証作業には慎重にならざるを得ないでしょう。

 ――最後に「空飛ぶクルマ」という呼び名について。地上を走らないので、SNS(ネット交流サービス)上では「クルマじゃない」「ただの大型ドローン」との声も上がっています。

 ◆海外では「アーバンエアモビリティー」(都市型航空交通)などと称されることもありますが、一般の人たちは「フライングカー」や「スカイカー」と呼んでいると聞きます。「空飛ぶクルマ」と訳しても、おかしくはないでしょう。日本では「空飛ぶクルマ」と呼ばれるからこそ、これだけ注目を集めているのかもしれませんね。

【聞き手・藤河匠】

空飛ぶクルマ

 一般的に、「電動」「垂直離着陸」などの特徴を併せ持つ乗り物で、法律上は航空機に分類される。乗員は1~5人程度で、地上走行用のタイヤはない。形状は大きく分けて、ドローンに似た回転翼を持つタイプと、飛行機のような固定翼を持つタイプがある。

 従来の航空機と比べて部品数が少ないのが特徴で、機体の製造は低コストで済むほか、騒音もヘリコプターより小さい。客から運賃を得て運航する商用運航には、国の「型式証明」や「耐空証明」という安全認証が必要になる。

 安定輸送が実現すれば、都市部での渋滞を避けた移動や災害時の救急搬送などへの活用が期待され、「空の移動革命」を夢見て、世界各地で開発競争が繰り広げられている。

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