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家族でも必要な支援違うと知って 京アニ遺族、母と兄が鳥取で公演

毎日新聞 / 2024年8月15日 12時32分

美術監督だった渡辺美希子さんが手がけたイラストを前に、事件で問われているものは何かを語る母達子さん(奥左)と兄勇さん(同右)=鳥取市のとっとり文化会館で、阿部浩之撮影

 36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った2019年7月18日の京都アニメーション(京アニ)放火殺人事件から5年。命を奪われた渡辺美希子さん(当時35歳)の母達子さん(74)と兄勇さん(45)=いずれも滋賀県=が7月末、鳥取市のとりぎん文化会館で講演し、パニック状態の中で対応を強いられるつらさや、臨床心理士のカウンセリングで気持ちの整理が少しずつ進んでいることなどを語った。【阿部浩之】

温かい空気必要

 とっとり被害者支援センター(佐野泰弘理事長)の招きで「想(おも)いと願い」と題して話した。

 美希子さんは08年に京アニに入社し、「境界の彼方」などの作品で美術監督を務めていた。達子さんは事件当日、京都市伏見区の第1スタジオで火災があったと聞き、美希子さんの姉と京都府宇治市の京アニ本社に駆けつけた。

 ドアの向こうから社員たちの嗚咽(おえつ)が聞こえた。部屋に入って美希子さんの家族だと伝えると、室内は急に静まりかえった。社長からは「病院搬送者の中に娘さんの名前はありません」と告げられた。

 美希子さんの実名を公表するか警察から問われた。「娘は悪いことを何もしていない。逃げも隠れもしない」という夫の意見に従い、公表を決めた。

 滋賀県の実家にまで来た報道陣に「帰ってくれ」と伝えた。手紙で取材を依頼する記者もいた。「遺族が悲しんでいる記事なんか、まっぴらごめんだ」と思った。事件翌月、美希子さんの部屋の片付けをした。「猫2匹を飼い、あの子らしい独特の飾り付けがいっぱいの部屋」。つらかった。

 事件発生直後に耳鳴りを伴うメニエル病を再発。警察から紹介されたカウンセリングを受けながら、何とか心を落ち着かせてきた。「精神的に強くて優しい人が増えたら、このような事件は起きないのではないか。あったかい空気感がそれぞれの組織にあってほしい」と語った。

周りに一声かけて

 達子さんと勇さんの講演は16回目。2人で話すのには訳がある。同じ家族であっても事件の受け止め方は違い、必要な支援が異なると知ってほしいからだ。アニメ好きの勇さんは「妹の進路に影響を与えたのではないか」と自分を責めた。事件後は微熱が続き、わらをもつかむ思いでカウンセリングを受け、自律神経の乱れで熱が出ることもあると知った。不思議とその後は熱が下がり、人間の体は心の影響を受けていると実感した。

 勇さんはパニック状態にあった事件直後、カウンセリングの誘いを断っていた。「仕事のことを考え、『自分は病んでいる』と認めたくなかった」。被害者側には、時期を待ちながら継続的に声をかけてあげることが重要だと指摘した。

 勇さんは、青葉真司被告=1審死刑判決で控訴=が法廷で、拘置所での手厚い看護に感謝し、今なら事件を起こしていないかもしれないという趣旨の発言をしたことを強烈に記憶している。「ふざけるな。なんじゃそれ」と怒りを感じたが、社会に誰もが少しでも幸せを感じられるものがあったら、こんな事件は起きないのではないかとも思ったという。「周りにしんどそうな人がいたら、一声かけてあげてください」と話して締めくくった。

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