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北方領土「共生時代」の日露 実話元にロシア脚本家が執筆、出版

毎日新聞 / 2024年8月26日 16時0分

歯舞群島の志発島で沖に流されながらも日本人漁師に救出されたソ連人姉妹。翻訳者の樫本真奈美さんが姉(左)を見つけ出し、証言を得た=1985年撮影(樫本さん提供)

 旧ソ連による北方領土侵攻から今年で79年。富山県は北海道に次いで引き揚げ者が多く、島別で見ると歯舞群島・志発(しぼつ)島からが746人と最も多い。戦後、島の日本人とソ連本土からの移住者が混在して暮らした「共生時代」に、志発島で小舟で沖に流されたソ連の子供たちを日本人漁師が救ったことがあった。この実話をもとに、ロシア人脚本家が一編の脚本に仕上げ、日本語に訳されて今年7月出版された。

 邦訳は「舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語」(皓星(こうせい)社)。北方領土侵攻から2年後の1947年、10歳前後の子供たち4人が海岸で、魚を入れる木箱に乗りこんで遊んでいた際、沖に流された。ちょうど日本人が島を追われ強制送還される日だった。子供たちの捜索が悪天候で難航する中、ひとりの日本人漁師が、自分の家族と離れ離れになるのを覚悟で救助に向かうという話だ。

 実際に救出された少女の一人が後年、「助けてくれた日本人とその子孫を見つけてほしい」と自分の息子に思いを託した。その息子はソ連崩壊後、ビザなし交流で北海道などを5回訪れ、漁師を捜したが見つからず、3年前に亡くなった。

 この息子の友人である映画プロデューサーのマイケル・ヤングさん(ロシア人、ペンネーム)が、この話をもとに映画化を目指して脚本を書いた。だが2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、日露間の政治情勢も不穏に。日本人との交流を描く映画製作はロシア国内で進められず、日本での書籍化を目指した。

 翻訳を引き受け、小説調に翻案した同志社大講師の樫本真奈美さんによると、小説には架空の人物が多く登場する。だが、樫本さんはノンフィクションの部分にこだわり、物語の核となる救出劇の裏付け調査を開始。その中で、実際に小舟に乗った女性を見つけ出して証言を得た。女性は日本人漁師のことをいつも思い出し、この漁師の人道愛が「たくさんの人々の財産になった」と語ったという。

 本書の読みどころは、漁師の勇敢な行動の場面だけではない。ソ連の秘密警察が登場し、国の歯車として自国の子供も見捨てる冷徹さを見せる場面と、その判断に葛藤する人間的な側面とが描かれている。国家間の戦争が個々の人間を翻弄(ほんろう)する様は今も変わらない。

 「『遠い隣人』と言われるロシアだが、日露双方の地元官民による地道な対話の努力の尊さを改めて感じる」と樫本さん。「両国間の政治情勢が難しい今だからこそ、今以上に厳しい関係にあった時代の漁師の行動が胸を打つ。多くの人に読んでもらいたい」

    ◇    

 北方領土返還要求運動は日露両国関係の悪化で先行きが見通せない状況だが、領土問題を次世代に継承する活動は、隣接する北海道だけでなく、富山県でも取り組まれている。今年は、県と黒部市が事務局を務める北方領土返還要求運動富山県民会議が今月19~22日、県内の中学生18人を北海道の根室などに派遣。中学生らは北方領土に隣接する地で元島民らの講話を聞き、領土問題を学んできた。【萱原健一】

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