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33年を経て新種発見の夢かなえた「小学生」 寄贈した化石の行方

毎日新聞 / 2024年8月29日 12時0分

33年前にミエイルカの化石を発見した坂佳彦さん=三重県総合博物館で2024年8月21日午前10時10分、下村恵美撮影

 見つけたイルカの化石が新種だったと認められ、33年前の「小学生」は何を思うか――。三重県総合博物館は20日、津市一志町にある前期中新世(約1800万年前)の地層から1991年に見つかったイルカの化石が新種と認定され、「ミエイルカ」と命名したことを発表した。化石が眠っていた石の塊を発見した会社員の坂佳彦さん(43)が「新種」の知らせを聞いたのは2月ごろ。30年以上前に大きな石を寄贈したことは覚えていたが、電話で「そうですか」と答えるのがやっとだった。

 亀山市立亀山西小に通っていた坂さんは化石採取が趣味だった父親の影響で、小学4年のころから化石に興味を持った。父と発掘現場に足を運び、貝などの化石を見つけては採取に夢中になった。化石を発見することになる地層は、収集家の間で貝の化石が出る場所として知られていた。

 5年生になった91年7月7日のことだった。いつものように父親と採取していた坂さんは偶然見つけた大きな石に歯のようなものがあることに気づいた。親子は「ノジュール」と呼ばれる石の塊に化石があると確信した。「重くて持ち運べず、父親とゴロゴロ引きずって運んだ」と記憶している。

 詳しく調べようと自宅に持ち帰ったものの、庭に野ざらしにしたまま放置していた。1カ月ほどたった頃、専門家と一緒に標本の名前を調べる県立博物館(現在の県総合博物館)のイベントがあり、持ち込んでみると、石から見えていた部分から「イルカの歯」であることが分かった。博物館から「大事な化石なので展示したい」という申し出があり、寄贈することになった。

 ただ、博物館でも新種認定まで長い時間がかかることになった。博物館の資料によると、石の塊の大きさは横40センチ、縦26センチ、厚さ19センチだった。石から化石を取り出す作業を業者に依頼したところ、「専門家と一緒に作業しないと不可能」との返答があったという。明確な記録はないものの、その後は対応はなされなかったとみられ、収蔵庫に保管されたままだった。

 止まっていた時間が再び動き出したのは、30年がたった2021年のことだった。鯨類化石が専門で、札幌市博物館活動センターの田中嘉寛学芸員が来館し、化石の重要さに気づいた。約2年半かけて、石を溶かしながら骨の部分を取り出す作業を繰り返し、全貌が明らかになった。

 詳しく調べると、頭や耳の形から川にすむガンジスカワイルカの仲間で、新しい属の新種の可能性が高まった。田中さんは地質学に詳しい県総合博物館の中川良平学芸員と研究成果を論文にまとめた。論文の査読を踏まえ、英国の大英自然史博物館が発行する学術誌で新種として発表され、学名が「三重の中新世のイルカ」を意味する「ミオデルファイヌス・ミエンシス」、和名が「ミエイルカ」と付けられた。

 坂さんは石を寄贈した後、何も連絡がなく、「ノジュールから何も出てこなかったのかな」と諦めていた。30年以上の時間を経て、新種認定の連絡に当初は実感はわかなかったが、発表前に改めて連絡を受けると、ようやく「新種の化石を見つけることができてうれしい」と喜びを感じ始めたという。

 33年前、小学生だった坂さんは見つけた化石が「イルカの歯」だと分かった時、当時の採取仲間の間で価値が高いとされたサメの化石を期待していたため、「残念に思った」と率直に明かす。ただ、「珍しい化石を探すことが夢だった」と、33年の時を超えてかなえることができた。

 坂さんが発見したミエイルカの化石は、県総合博物館で9月16日まで開催されている企画展で展示されている。「博物館に大事にしてもらいながら、見た人は古代に思いをはせてほしい」と話していた。【下村恵美】

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