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333kmマラソン優勝、「後頭部アート」で脚光 異色の版画家

毎日新聞 / 2024年9月1日 8時15分

版画家の若木くるみさん=奈良県天理市のなら歴史芸術文化村で2024年8月7日午前11時45分、前本麻有撮影

 自らの後頭部に顔を描くなど、強烈かつ笑わずにはいられない作品を生み出す京都市在住の版画家・若木くるみさん(39)。酷寒の北海道で育ち、国内外のマラソンで鍛えられた驚異的な体力、精神力で制作に取り組んでいる。【前本麻有】

 台湾の333キロマラソンで女子優勝(2013年)、36時間以内にギリシャ・アテネからスパルタの246キロを走破するスパルタスロンで女子9位(16年、日本人女子で1位)と、アーティストらしからぬ記録を持つ。

 「マラソンでは前を走る人の後頭部ばかりが目に入る。『後ろを向いた顔』があれば楽しいかも」と、自らの後頭部の髪をそり上げ、地肌に顔を描くアートが生まれた。その「後頭部アート」で第12回(08年度)岡本太郎現代芸術賞・岡本太郎賞を受賞し一躍、脚光を浴びた。

 新型コロナウイルス感染症の流行を機に、現在は版画に力を注いでいる。浮世絵から着想した「浮世離れ絵」シリーズは、令和のコロナ禍を反映させた。山荘での滞在制作では、樹木に紙を巻きつけインクを含んだスポンジで樹皮の模様を写し取り、そこに木版画の愛らしいリスをあしらうなど、自分が置かれた状況や場所から発想を得て、確かな技術に裏打ちされたユニークな作品を生み出す。

 幼少期は北海道・利尻島で木登りをしたり、道ばたのおばさんと昆布を干したり。CD販売店もレンタルビデオ店もない。「何も情報が入ってこない環境だった」とアートとは無縁だったが、お絵かきは好きだった。

 父の転勤で道内を転々とし、高校時代は旭川市。自宅から一旦、学校とは逆方向の最寄り駅に向かうのが煩わしく「通学定期代を着服して、吹雪の日でも7キロを走って登下校していた」という。そんなある日、美術部で描いた油絵の作品が入賞、札幌市の美術予備校から体験入学の招待が来た。この時、初めて「美大」の存在を知った。

 一浪を経て京都市立芸術大学へ。複雑に機材や薬品を扱う版画の中で、シンプルな木版画に魅力を感じた。それでも芸大で自信が持てずにいた時、マラソンが趣味の父から大会に誘われ、世界屈指のニューヨークシティマラソンを完走。知らず知らず、北の大地で養われていた体力はすさまじかった。

 以来、数々の大会に出場。マラソンを愛してやまないのかと問うと「いえ、走るたび『もう二度と走るか!』と思っています。でも『あの距離を走りきったんだ』という経験が、制作でくじけそうな時に自分を支えてくれるのです」。そう拳を握りしめて熱く語る足元は、かかと部分がない体幹トレーニングスリッパだ。「秋にあるマラソン大会に招待されてしまって……」と制作中も鍛錬を欠かさない。

 取材時は、奈良県天理市のなら歴史芸術文化村で滞在制作中で「走っている暇はないくらい、今はどんどん作りたいものが思い浮かんで、ワクワクしている」。今後の作品も楽しみだ。

23日まで公開制作

 奈良県天理市のなら歴史芸術文化村で「修復」をテーマに23日まで、公開制作と作品の展示をしている。

わかき・くるみ

 1985年生まれ。2008年京都市立芸術大版画専攻卒業。主な受賞は第12回岡本太郎現代芸術賞・岡本太郎賞(08年度)、六甲ミーツ・アート大賞(13年)、京都市芸術新人賞(20年度)。

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