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「難民」人材のスキルに着目 IT企業で広がる就労の輪

毎日新聞 / 2024年9月3日 17時3分

システム開発会社「ボンズットナー」で働くシリア出身のイスカンダー・サラマさん(右)と話す社長の坂下裕基さん=東京都港区で2024年6月18日午後2時37分、飯田憲撮影

 紛争や迫害によって国内外に退避を余儀なくされた難民・避難民は今年、過去最多の推計1億2000万人に達した。日本は難民の受け入れに消極的とされるが、難民のスキルに着目し、国内での就労を後押しする試みが始まっている。難民を支援しながら教育の機会を提供し、高度人材として活躍してもらう狙いがある。

 「シリアと日本の懸け橋になるのが今の夢」。システム開発会社「ボンズットナー」(東京)の最高技術責任者(CTO)として働くシリア出身のイスカンダー・サラマさん(31)はよどみない日本語で語る。

 シリアでは2011年3月に始まった反体制デモが拡大し、内戦に発展。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今も600万人近い難民が周辺国に逃れている。イスカンダーさんもその一人で、首都ダマスカスのダマスカス大学でプログラミングについて学んでいたが、内戦の悪化に伴い、隣国レバノンに家族とともに避難した。

 内戦が長期化する中、イスカンダーさんは、日本政府の支援方針に基づいて国際協力機構(JICA)が17年から実施しているシリア難民の留学生受け入れ制度を知った。日本に対しては、品質の高い家電や車をつくる国というイメージしかなかったが、現状から抜け出そうと試験に応募した。

 制度は将来のシリアの復興や、日本との友好関係を担う人材の育成が目的だ。UNHCRが難民と認定したシリア人留学生をJICAが毎年20人規模で受け入れ、生活費を援助する。留学生は国内12の大学院で主に工学、情報通信、経営学、社会科学、保健学の分野について2~3年学ぶ。

 家族の呼び寄せも可能で、日本語能力向上や生活の支援も手厚い。これまで79人が来日し、うち48人が国内で就職した。理系が多く、IT関連の企業が中心だ。内戦は終息の兆しが見えず、JICAは受け入れを続ける方針という。

 イスカンダーさんは18年に創価大学大学院・理工学研究科へ入学して人工知能(AI)を研究した。2年間の修士課程を終え、20年、アプリ開発やウェブサービスの構築を手掛けるボンズットナーへ入社。入社から3年で高度人材が対象の在留資格「高度専門職1号」に移行し、異国の地で自立した生活を送る。

 イスカンダーさんは「日本にいる今の自分は難民ではなく、プロのITエンジニア。仕事を通じて、故郷で苦しんでいる人を助けたい」と語る。

 日本では、非正規滞在の外国人の収容や送還のルールを見直す改正入管法が6月に全面施行された。3回目以降の難民申請者は送還される可能性があり、懸念も示されている。

 ボンズットナーは内戦から周辺国に逃れたシリア人のITエンジニアに働く場を提供している。社長の坂下裕基さん(37)は「日本の難民に対する世論は『受け入れか排除か』の極端な二元論に陥っているようにみえる。高いスキルを持つ難民がビジネスで成功する姿を見せれば、難民に対する印象も変わる」と話す。【飯田憲】

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