石川・珠洲の伝統「砂取節」 担い手不足で閉幕も、能登地震で復活
毎日新聞 / 2024年9月5日 9時15分
石川県珠洲市馬緤(まつなぎ)町で江戸時代から歌い継がれてきた「砂取節」(県無形民俗文化財)。それに合わせて踊る「砂取節まつり」が8月中旬に行われた。本来ならば、担い手不足のため昨年限りで幕を下ろしたはずだったが、能登半島地震で傷ついた地域を元気づける一助にと地元住民らが結束して復活させた。
砂取節は、揚げ浜式製塩の塩田で、砂を採取する際に歌った労働歌。踊りは毎年、地元小学校の運動会でも披露され、住民なら誰でも踊れるほど親しまれている。祭りは1968年から毎年8月13日に行われてきたが、担い手不足などを理由に昨夏で取りやめになった。
今年1月。地震後に避難所に集まった住民らが、海底隆起で広がった砂浜を見て「今年も祭りをやろう」と冗談半分で語り合った。県外から訪れたボランティアの中には砂取節に興味を持ち、住民らから歌や踊りを習う人もいた。
地震前の住民約190人のうち、地区に戻ってこられたのは3分の1程度。実行委員長を務めた南方(なんぽう)治さん(73)は「砂取節は住民の心のよりどころ。祭りで住民が帰ってくれば、みんな少しは元気になるのではないかと思った」と開催を決めた理由を振り返る。
会場の市自然休養村センターには地元住民のほか、全国から駆けつけたボランティア関係者ら約200人が集まった。砂取節の歌い手を務めた5人のうち、2人はボランティアで地域と縁ができた人たちだ。
そのうちの一人、神奈川県葉山町の山口愛さん(46)は7月に地区を訪れた際に住民から歌を習い、帰ってからも練習を続けてきたという。仲間らと地域の歌や踊りを全国に伝える活動もしており、「能登の文化を知るきっかけになったり、被災者が内側から元気になったりするような手助けができれば」と話した。
20代の頃から歌い手として活動し、当日も2次避難先の金沢市から駆けつけた國永信一さん(92)は「外からたくさんの人が集まってくれてうれしい。これから若い人たちが後を継いでくれたら」と期待した。
参加者らは、センター前の砂浜で、日本海に沈む夕日を受けながら輪になって踊りを楽しんだ。浜辺で祭りをするのは約50年ぶりといい、避難先の京都市から祭りに参加するために帰省したという中平幸枝さん(74)は「祭りをずっと楽しみにしていた。いつもの祭りより人も多くてうれしかった」と喜んだ。【阿部弘賢】
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