原爆ドーム訪れた人を撮り続け 被爆80年で写真集の出版目指しCF
毎日新聞 / 2024年9月10日 8時15分
原爆ドーム(広島市中区)を訪れた人々の肖像写真を中心に撮り続けている写真家の宮角孝雄さん(76)=東京都=が、被爆80年となる2025年に写真集を出版しようとクラウドファンディング(CF)で制作費の一部を募っている。「世界平和を願う写真を届けて思いを共有したい」と話し、約25年にわたって撮りためてきた作品を選んで制作する。
庄原市出身。1945年8月6日、宮角さんの祖父と父は故郷の庄原へ疎開しようと広島駅で列車を待っていた時に被爆した。父は屋根の下敷きになり、五寸くぎが頰を貫通した。何とか一命を取り留めたが、被爆から10年以上がたっても、体からガラス片が皮膚を破って出てきたという。
東京で雑誌や広告向けの撮影などを手がけてきた宮角さんは、ライフワークで平和をテーマとした写真に取り組む。2000年から撮り始めたドーム前での肖像は計数千人分に上る。
被写体を頼む相手は外国人や親子、被爆者、著名人などさまざまだ。声をかけた通行人にドームを背に立ってもらい、何回かシャッターを切ると、「目を閉じて平和について考えてみてください」と伝える。眉間(みけん)に力を入れて口を固く閉じる人もいれば、頰を緩めて穏やかな表情を浮かべる人も。「その姿は仏や神のようで、平和をつくる礎となる」と考えている。
撮影が終わると、そばにいた妻智子さん(60)がアンケートの記入を依頼する。なぜドームを訪れたのか、原爆や核、平和をどう考えているかなどを問うもので、回答は写真集に掲載する予定だ。
宮角さんは10年に、ドーム前と長崎市の平和公園で撮影した肖像写真の写真集「GROUND ZERO 希望の神話」を刊行している。再び「グラウンド・ゼロ(爆心地)」をタイトルとする新たな写真集には、約200~250の作品を掲載予定。歌手の南こうせつさんや俳優の東ちづるさん、NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」国際運営委員の川崎哲さんのほか、サッカー日本代表の選手らの写真も含む。今回は愛を表現したいとカップルのキスシーンや、将来を担っていく子どもの撮影に力を入れたという。
「なぜ世界中で戦争が起きているのか、みな少しは疑問に思っているはず。それを考えるきっかけにし、平和へのヒントを得られたらいい」。写真はモノクロ。カラーのように情報が全て与えられないことで、見る人に考える余地が生まれるといい、写真集を手に取った人たちに「一緒に考えてほしい」と呼びかける。
写真集は25年3月、A4判200ページで500部を発行する予定。CFはウェブサイトから。10月15日まで受け付けている。【根本佳奈】
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