奈良県立大の植物標本廃棄問題 県の回答に研究者らあぜん
毎日新聞 / 2024年9月10日 17時15分
奈良県立大が研究者から寄贈を受けて保管していた貴重な植物標本を誤って廃棄した問題で、県は10日、一連の経緯説明と廃棄を陳謝する回答書を、寄贈に関わった奈良植物研究会に手渡した。県は陳謝する一方で「自然史研究・教育を所管する体制がないのに寄贈を受けたことが遠因」として、標本の受け入れ自体に問題があったと説明。今後寄贈の申し出があった場合は国や他の自治体に紹介するとした。研究会メンバーらは「あぜんとする回答で失望した。県として奈良の自然史を次世代に引き継ぐ姿勢が見えない」と憤った。
標本は元高校教諭の岩田重夫氏(1916~88)が晩年までの40年近くをかけて集めた「岩田コレクション」。約1万点の量があり、今では採取できない種や希少種も多く含まれていたという。2001年に寄贈を受けた県は覚書などに基づいて県立大の専用ロッカーで保管していたが、職員に経緯が引き継がれず、校舎の取り壊しに伴い23年10月に誤って処分したという。
この日は、21年の段階で標本がロッカーから取り出され、そのまま床に積み上げられていたことなどが新たに説明された。県は「標本の認識がなかった」として引き継ぎがされなかったことを陳謝した一方、「管理する責任は当然あるものの、そもそも自然史研究の体制が整っていない」(教育振興課)と説明。改めて体制を構築するよう求める研究会に対し「庁内で意見は共有する」と述べるにとどめ、今後は自然史博物館を持つ大阪市などを紹介すると答えた。
研究会会長の松井淳・奈良教育大特任教授は「普通は姿勢だけでも前向きに検討するというものだが、『よそでやって』という回答は逆方向で意外。県外で保管してもらって、研究成果だけ県民に還元というのは通るのか」とぶぜんとした表情。同会メンバーの岡崎純子・大阪教育大特任教授も「自然という県の財産を守っていくスタンスがないのが非常に残念。県としての努力が全く見えない」と声を詰まらせた。
松井会長や山下真知事(当時は生駒市長)も策定作業に参加した「生物多様性なら戦略」(13年策定)では、目録の作成など科学的知見の集積による生物多様性の保全に努めることも基本方針のひとつに位置づけられている。【稲生陽】
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