明るさ届けて10年目 UHBアナ・柴田平美さんの「野望」は?
毎日新聞 / 2024年9月12日 12時15分
北海道で土曜の朝にのんびりとテレビを見ていると、目に飛び込んでくる笑顔がある。画面越しに元気を届けてくれるのは、北海道文化放送(UHB)の柴田平美(なるみ)アナウンサー(32)=根室市出身=だ。情報番組「いっとこ! みんテレ」のMC(司会進行役)を担当する。入社10年目。新型コロナウイルスの流行期に感じた情報番組作りの難しさ、今、力を入れている映画紹介の仕事などについて聞いた。【水戸健一】
「いっとこ!」は、「おいしい・たのしい・あたらしい! 週末に役立つ北海道の情報バラエティー」をコンセプトに2020年4月にスタートした。柴田さんは開始時にMCを任された。新型コロナの感染拡大を受けて、政府が1回目の緊急事態宣言を発出した時期(20年4月7日~5月25日)と重なり、「お出かけ情報番組」として苦しい船出だったと振り返る。
「今でこそ、オンラインでの会議は当たり前になりましたが、当時は試行錯誤の連続でした」。関係者との打ち合わせはリモート。生放送中の出演者との言葉のキャッチボールもビデオ通話を用いて手探りで進めた。
飲食店で取材し、「ぜひ足を運んでね」と紹介することもできなかった。スタッフと頭を悩ませながら、お出かけ情報を届ける代わりに、「お家(うち)時間の過ごし方」のアイデアなどを紹介することを決めた。とにかく、心がけたのは「明るさを届ける」ことだったという。
柴田さんが「いっとこ!」の前に担当したのは報道番組だった。新人時代から5年間。「悲しい出来事を伝えることも役目と分かりながらも、胸が痛くなることが多かった」と言う。コロナ禍では特に暗いニュースが増えた。その中で任されたのが情報番組のMCだった。「明るく前向きな話題を発信しようと努めました。重たい空気の中、せめて週末だけは、と」
コロナの流行が落ち着き、番組は本来の形になった。MCという立場上、現場からのリポートはそれほど多くないが、8月19日放送の番組の「札幌カフェマップ」のコーナーで札幌円山エリアの「スパイスたっぷり無水カレー店」などの新店を紹介した。
スパイスカレー作りが趣味ということもあり、「食レポ」は丁寧。「いろいろなスパイスの香りがする。ふわっとして野菜の甘みもあり、食べやすい。毎日、食べたいです」との説明に腹が鳴った視聴者もいるだろう。
柴田さんは取材中だけでなく、テレビでもいつもにこやかな表情が印象的だ。その笑顔にこだわる原点は子どものころに毎朝、テレビで見た「お天気お姉さん」だという。明るく情報を伝える姿に元気をもらっていた。
とはいうものの、「テレビに出て、同じことをしたい」と思うことはなかった。根室で過ごした小中学生時代は、書道、そろばん、三味線、水泳、ピアノ……と多くの習い事を経験。特に日本舞踊はずっと続けていて、大学2年の時に、花柳(はなやぎ)流で名取になった。名乗ることを許された芸名は「花柳苹扇(ひょうせん)」。苹は平美の「平」に由来する。大変なこともあったけれど、「自分で目標を決め、そこまで達成しよう」というタフなタイプだった。
地元の根室で得たものはたくさんある。一つは、ボタンエビの皮むきの「技」だ。根室高に通っていた時、父親の知り合いのすし店でアルバイトをしたという柴田さん。週に2、3日、接客を担当し、年末年始の繁忙期にはエビの皮むきも任された。「一つだけできた特技。すごくきれいにできます。ボタンエビも甘エビも」と笑う。
高校卒業後、藤女子大(札幌市北区)に入学。文学部で学んだ。「地下鉄がある」という札幌での生活は新鮮だった。サークルに入らず、スターバックスでアルバイトをした。
大学1、2年のころ、スノーボードのイベントの告知や中継をする「キャンペーンガール」を務めることになり、初めてテレビに出演した。楽しく情報を伝えられた……と思いきや、帰宅して録画した映像を見返しながら反省の毎日だったという。
「テレビでよく言われるのですけれど、1・5倍の声量、明るさで話さないと伝わらない。画面を通すと、一段階、テンションが下がって伝わるんですよ」。画面越しに伝えることの難しさを痛感した。そして、就職活動のガイダンスが始まったとき、就きたい職業として頭に浮かんだのがアナウンサーだった。アナウンススクールに通い、「伝える」技術を磨いた。各社の面接を受け、就職が決まったのが地元のUHBだった。
テレビに出るようになって起きた変化はあるのだろうか。「自分は特にないのですが、友だちに会った時、『久しぶり』と言ったら、『テレビで見ているから久々な感じがしない』と笑われることでしょうか。見てくれているのだな、と実感できてうれしい瞬間ですよね」。視聴者からの反響も仕事のやりがいにつながる。「番組、見ています」「あの店、いってみましたよ」という単純な一言。たとえ短くても、「伝わった」という手応えが励みになっている。
柴田さんは「いっとこ!」で映画紹介コーナーも担当する。地元の根室は映画館がなく、両親が月に1回程度、釧路市に出かける時について行って、鑑賞を楽しんだという。初めて映画館で見たのは小学3年のときで、「名探偵コナン 天国へのカウントダウン」(01年)。一番後ろの真ん中に座って、一人で見るのが好きなのだそうだ。
映画鑑賞は趣味となり、いまや仕事となった。試写会に出向くことを含め、月に10本以上を見るという。UHBが運営する映画情報サイト「SASARU movie」のライターを担当し、映画製作者らへのインタビューも精力的に重ねる。
「インタビューの時は変にへりくだることはしないようにしています。立場は人と人ですから。自然体ですね。緊張することも、もちろんありますよ」。今後は英語や韓国語を身につけて、通訳を介さず、海外の俳優、製作関係者らに話を聞いてみたいという。
仕事をする中、北海道は「エンターテインメントに触れる機会が少ない」と感じることが多々ある。「海を越えるので、舞台の機材などを運ぶのが大変な状況などもあるみたいです。北海道でエンタメを楽しめる機会を増やしたいと思っています」
地元の「ねむろ観光大使」も務める柴田さん。「根室から釧路まで2時間ですよ。映画は子どもの時、本当に月に1度がやっとでした。いつか映画館のない根室で上映会も開きたいです」という「野望」も明かした。
最後に柴田さんの意外な一面を紹介する。「小さな時から、とにかくチョコレートとグミが好き。絶対に持ち歩いています。コンビニにあるグミは一通り食べています。新作もチェックします。手軽に幸せになれることが魅力です」とのこと。大好きな菓子を普段からアナウンサーの同僚たちに配って職場を和ませているそうだ。
しばた・なるみ
1992年根室市生まれ。藤女子大卒。2015年に北海道文化放送(UHB)入社。「いっとこ! みんテレ」(土曜午前10時25分~)MC(番組進行役)を務める。UHBが運営する映画情報サイトでライターも担当。最近、泣いた映画は「インサイド・ヘッド2」という。趣味は韓国ドラマ鑑賞、スパイスカレー作り。
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