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今も消えぬ心苦しさ 御嶽山噴火10年

毎日新聞 / 2024年9月21日 16時0分

御嶽山の山頂・剣ケ峰(右)の上空に広がる星空=御嶽山の山頂直下300メートル付近で2024年9月3日午後11時28分、宮間俊樹撮影

 2014年9月27日午前11時52分に発生した御嶽山(おんたけさん、標高3067メートル、長野県・岐阜県)の噴火災害からまもなく10年。58人が亡くなり、いまだ行方不明の5人が山のどこかにいる。噴火に遭遇した人々を取材した。

 神奈川県の会社員、里見智秀さん(57)は当時、同僚8人と登っていた。噴火で5人を亡くし、1人が今も行方不明だ。

 山頂・剣ケ峰に着いたのは昼前。記念撮影後、昼食を前に景色を楽しんでいた時だった。「パーン」。ピストルのような音が耳に入った。同じような音が再び聞こえ、噴煙が見えた。御嶽神社奥社の木製カウンター下に身を隠した。闇に包まれ、噴石が落ちるたび地響きが全身に伝わる。「自分の身は自分で守るしかなかった」。そこで1時間近く耐えた。熱波は冷たい空気に変わり、周囲は灰まみれの世界になっていた。御嶽頂上山荘に逃げ、同僚2人と再会した。

 「あのとき一緒に食べられなかった仲間に届けたい」。里見さんは命日はもちろん、可能な限り月命日も山麓(さんろく)の慰霊碑や山頂を訪れてきた。「ランチを持ってきたよ」。6人分のカップ麺を持参し手を合わせる。

 里見さんは今春、御嶽山噴火災害の伝承や火山防災教育の担い手となる「御嶽山火山マイスター」に合格した。

 山岳写真家の津野祐次さん(78)は、出版に携わったガイドブックの確認のため単独で入山していた。山頂直下200メートル地点で「見たことのない雲だ」と思ってすぐさまシャッターを切った。

 黒沢口登山道を9合目付近まで夢中で逃げながら計18枚を撮影した。途中、噴煙に巻き込まれ暗闇に襲われた。爆発音が鳴り響き、稲光が走る。Tシャツの裾をめくり上げ口に当てて灰を吸わないようにしたが細かい噴石や火山灰が体に当たり、息苦しくなり「死ぬ」と覚悟も決めたと振り返る。

 「明日はどうなるか分からない。一日一日を大切にしたい」。噴火後は、より精力的に各地を訪ね歩き撮影に力を入れてきた。

 地獄谷火口近くの「八丁ダルミ」には今も降り注いだ噴石が散乱する。「苦しかっただろうな。よくがんばったよな」。当時の王滝頂上山荘支配人で、現在は噴火後に配置された王滝口登山道パトロール員を務める正(しょう)沢(ざわ)功さん(56)は声を詰まらせ噴石を手に取った。

 発生時は山荘の調理場にいた。「正沢さん!」。別のスタッフが叫んだ瞬間、「ドーン」と大きな音がして一瞬で暗闇に。2~3分すると強烈な臭いと火山灰、熱風が窓の隙間(すきま)から入ってきて噴火だと悟った。山荘には最大60人近くの登山者が逃げ込んだ。全身真っ白でせき込む人も多く、恐怖のあまり取り乱す人も。午後1時すぎ、ふもとへの視界が開けた。日没時間も考えて避難者と下山を決断した。その後、山荘に逃げ込んだ人もいたといい、「ここで亡くなった人もいたし、けがをして苦しんだ人もいた」。心苦しさは10年たっても消えない。

 正沢さんは行方不明者の捜索で、案内役も続けている。【宮間俊樹】

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