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太平洋戦争前夜に作成の「極秘資料」 古本屋で見つけた大学教授

毎日新聞 / 2024年9月21日 12時15分

未来技術遺産に登録された書籍「河氷特に氷上軌道に関する研究」。「極秘」という判が押されている=名古屋大提供

 国立科学博物館(東京)が9月、次世代に引き継ぐべき未来技術遺産として登録したのは、太平洋戦争前夜に作成された「極秘資料」だった。その原本を約30年前、古本屋で探し当てた名古屋大環境学研究科の西澤泰彦教授(64)=建築史=は「戦争に向かう日本を知る歴史的資料」と話す。

 未来技術遺産(正式名・重要科学技術史資料)に登録されたのは、旧日本軍が太平洋戦争に突入する4カ月前の1941年8月、南満州鉄道(満鉄)が作成した「河氷(かひょう)特に氷上軌道に関する研究」と題した書籍だ。

 39~41年、冬季に凍結した河川上に鉄道軌道を通すため、氷の特性、氷に対する荷重試験、列車通過時の氷への影響などを調査した結果が記されている。写真も多数掲載され、617ページに及んだ。当時は300部の限定で印刷し、配布されたのは約260部だった。

 書籍は戦後、世界的にも珍しい氷上軌道の実用化を目指した資料として国際的にも評価され、復刻版も出版された。復刻版は北海道大低温科学研究所(札幌市)など全国の研究機関で複数冊所蔵されているが、原本は西澤教授が約30年前に見つけるまで古本屋に眠っていた。

 旧満州(現中国東北部)の建築文化などを専門としていた西澤教授は満鉄に関する研究資料として入手。その後は名古屋大工学図書室(名古屋市千種区)が所蔵することになったが、西澤教授は「科学技術史を語る上で価値が高い」と考え、研究者らに相談するなど未来技術遺産への登録に向けた準備を進めてきた。

 登録の主な理由は「氷工学、鉄道工学の分野で注目すべき希少な資料」としての価値。だが、西澤教授は極秘資料の歴史的価値にも注目する。書籍では、鉄橋の破壊や崩壊に伴う代替手段として氷上軌道を建設することが必要と記されている箇所がある。「日ソ関係の悪化に伴い、日ソ開戦時のソ連からの攻撃による満州国内の鉄道破壊への対応、関東軍によるソ連領への渡河攻撃を想定したのでは」。西澤教授は想像を膨らませる。

 今月10日に東京で行われた未来技術遺産の登録証と記念盾の授与式に出席した西澤教授。「古本屋で探し当てた書籍が登録されたのは驚きだった」としつつ、「自分の専門とは少し違う分野ではあったが、登録されることで資料が持つ幅広い価値が認められ、多くの人に知ってもらえれば」と話す。

 書籍は国立科学博物館で今月29日まで行われている登録記念パネル展で展示されている。【真貝恒平】

未来技術遺産(重要科学技術史資料)

 科学技術史上で重要な成果を示したものや、生活、経済、社会、文化に大きな影響を与えたものなど、先人の経験を次世代に継承していくことを目的に、国立科学博物館が2008年から登録を始めた。昭和の「黒電話」や、最近ではソニーが2000年に発売した家庭用ゲーム機「プレイステーション2」が選ばれている。

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