「子どもが喜びつかめる絵本屋に」 本のぬくもり届け続ける夫婦
毎日新聞 / 2024年9月29日 17時0分
松本峰人(まつもと・みねと)さん、道子(みちこ)さん
居酒屋やアパレル店でにぎわう広島市中区の「うらぶくろ商店街」。袋町公園近くのビルの一室には、創業40年を迎える本屋がある。「かわいい絵本がたくさんで、優しい店員さんにも癒やされました」「お店で相談しながら選書してもらうってのがすごい楽しかった」。店を訪れる多くの人が、大切な人に贈るぴったりの一冊を見つけた感動をSNSに投稿している。デジタル時代の今も、本との出会いを楽しめる空間を二人三脚で守っている。
大学のクラブ活動で知り合った二人は結婚後、家具屋を継ぐために広島に移った。家具屋をたたんだ後、駐車場経営をしながら家計を支えるために何かできないか話し合った末、絵本屋にすると決めた。開業までの1年、児童図書館員をしていた友人にアドバイスをもらいながら、こども図書館に通って800冊を選んだ。
「中学生の時、お小遣いを握りしめて書店の中をうろうろしながら一冊に出会うのが、図書館とは違う楽しさがあった」という道子さん。「本を手渡すことで、子どもが喜びをつかめるような本屋になりたい」。そんな思いで、1984年11月3日の文化の日、広島初の児童書専門店として「えほんてなブル」をオープン。中区舟入川口町にあった自宅の横に船舶用コンテナをL字型に組み、店舗として改装した。
当初は、書店経営の右も左も分からず、多くの壁にぶつかった。「お客さんがゼロの日もあって、店というより物置のような感覚だった」。取次会社に一般書を置くことや、売れ筋の本を勧められたが、それでも「自分が子どもだったら出会いたかった本を置く」という信念を貫いた。
2014年には中区中町の現在のビルに移転。幼いころに通っていた人が、親になってまた訪れることもあるという。店内には、峰人さんが作った木のおもちゃも置いてあり、子どもに大人気だ。おすすめの本を配達するサービスを始め、親自身が寝る前に読みたい本や入院中の友人へのプレゼントなど、大人向けの選書の相談にも応じる。
「子どもの未来を育てる本屋でありたい」「50周年まで続けたいね」。これからも支え合いながら、本のぬくもりを届け続ける。【武市智菜実】
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