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水俣病関西訴訟20年 いまだ被害全容不明 「国と県は早く調査を」

毎日新聞 / 2024年10月17日 13時5分

インタビューに答える花田昌宣氏=熊本市中央区の熊本学園大で2024年10月9日午後3時22分、中村敦茂撮影

 水俣病を防ぐための規制を怠ったとして、被害拡大における国と熊本県の責任を確定させた2004年の関西訴訟最高裁判決から15日で20年となった。だが、被害の全体像把握は、国が25年度に試験的な健康調査を計画する段階に過ぎない。水俣病問題に詳しい熊本学園大の花田昌宣シニア客員教授は、国と県による早期の調査の必要性を指摘する。

 ――最高裁判決は地元の熊本県水俣市などにどんな影響を与えたか。

 ◆認定申請している患者たちの雰囲気が変わり、公然と水俣病を語れるようになった。それまでは1994年の慰霊式で吉井正澄元市長(故人)が住民同士の間で失われた絆を回復する「もやい直し」を提唱するなどしたが、患者本人はなかなか表に出て発言できなかったのが実情だった。

 ――歴史的な意義をどう考えるか。

 ◆最高裁判決は1956年の水俣病の公式確認から50年を控えた時期に示された。それは国や県の行政が水俣病に向き合ってこなかった半世紀でもある。国と県は自分たちが水俣病被害者・患者を救済する側だという立場を取ってきた。一方で日本の化学産業を支える一企業のチッソもそう簡単につぶすわけにはいかない考えもあった。国や県の担当者の頭の中には、そういう力学みたいなものが働いていたと思う。その中で被害は拡大して多数の患者が出た。賠償責任に値する被害拡大の当事者として、ひたすら反省してもらうしかない。

 ――最高裁判決では複数症状の組み合わせを必要とする国の認定基準より広く患者を認めた。

 ◆その地域に住み、汚染された魚介類を食べたという疫学的条件に加え、神経症状が一つでもあれば水俣病と認めようと。判決をストンと読めばそう書いてある。だがその後も国の基準は変わらず、行政の判断条件を満たす患者、司法が認めた患者――という二重基準が存在する。司法判断なり医学的な研究を積み重ねてきて水俣病像は(重度から軽度まで多様な症状があると)変わってきており、最新の知見に基づいた判断をすればいいが、できていない。

 ――判決を受け、09年には最終的解決を目指すとして、水俣病救済特別措置法(特措法)が施行されたが、一時金210万円などを支払う救済から漏れた人がいる。また、法で定めた国による住民の健康調査も進んでいない。

 ◆水俣病ではないが、水俣病にみられる症状を有している人を対象にした「なんだろうこれは」と感じる救済策だった。水俣病の影響を受けた人は医者にかかる機会が多く、医療費の支給には現実的な意味があったと思うが、一時金も少額であまり評価できない。

 ――この20年、国、県は責任と向き合い、役割を果たしたと言えるか。

 ◆なされていない。いまだに(国、県が拡大させた)被害の全体像は明らかにならず、何人の被害者がいるか分からない。これは水俣病固有の問題と言える。明らかになった被害者は認定申請をした人、あるいは特措法による救済に申請して認められた人だけ。特定地域で起きたことを手挙げ方式で救済するのはよくない。偏見を恐れて手を挙げられない人が多くいるからだ。

 ――国、県がこれから取り組むべきことは何か。

 ◆不知火海沿岸の被害の全貌を調べることだ。救済対象が確定しなければ、救済策も打ちようがない。70年代以降に水俣市など自治体による健康調査があり、研究者による調査や医療機関に残るカルテもある。悉皆(しっかい)調査にはならないが、まずはそれらを行政の力で収集し、丁寧に見るところから始め、類推すれば被害者数を計算できるはずだ。その上で、可能なら住民健康調査を実施すればいい。調査は従来のもので十分。脳磁計など新たな手法の開発を待つ必要はない。【聞き手・中村敦茂】

花田昌宣(はなだ・まさのり)さん

 1952年、大阪府生まれ。京都大大学院、パリ第13大専任講師などを経て、94年から熊本学園大社会福祉学部教授。医師の故・原田正純氏と2005年、水俣病を学際的に追究する水俣学研究センターを設立し、10~23年には2代目のセンター長を務めた。専門は経済学。

水俣病関西訴訟

 不知火海沿岸から関西に移住した未認定患者が、排水を垂れ流したチッソのほか国と熊本県に賠償を求めて1982年以降に順次提訴。大阪高裁は2001年、3者に賠償を命じ、チッソは上告を断念。最高裁は04年10月15日の判決で、法令に基づく規制権限を行使せず、水俣病の拡大を防止しなかったとして国と県の賠償責任を認め、確定した。また、複数症状の組み合わせを必要とする国の認定基準よりも幅広く患者を認めた。

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