繰り返される大雨被害 山形・最上川流域住民「抜本対策を」
毎日新聞 / 2024年10月24日 15時55分
「『想定外でした』という言葉を行政は控えてほしい。これまでを評価した上での治水対策が必要だ」
7月の記録的大雨による最上川の氾濫などで、69世帯が暮らす地区全体が浸水被害を受けた山形県戸沢村蔵岡。集落の古刹(こさつ)、長林寺の斉藤仙邦住職(68)は、大雨のたびに被災した過去を振り返り、最上川中流域の住民全体が安心して暮らせるような、抜本的な治水対策を求めている。
同じ流域で隣接する大蔵村の寺院を拠点に、複数の住職を兼務する斉藤さんが大雨で被災した長林寺にたどり着いたのは、発災から2日後の7月27日。水が引いた本堂や位牌(いはい)堂の壁には最大で床から1・6メートルの高さまで浸水した跡が残っていた。
棚に整然と並んでいた檀家(だんか)の位牌が散乱し、泥にまみれた無残な状況に「またやられた」と崩れ落ちた。
「また」というのは6年前の2018年8月、2度にわたって大雨災害に襲われた苦い記憶のことだ。
最上川の支流、角間沢川が氾濫し、集落が濁流にのみ込まれた。折しも国が排水ポンプを整備したばかりだったが、1度目の大雨では停電で機能せず、2度目はポンプが稼働したものの、内水氾濫で集落は再び浸水した。
その後、国は集落全体を土手で囲って内水被害から守る「輪中堤」を整備し、23年に完成させた。しかし災害は繰り返された。
国土交通省東北地方整備局のまとめによると、今年7月の大雨では最上川中流域で蔵岡を含む3カ所で越水し、支流を含めると計6カ所で堤防の決壊などが発生した。
斉藤さんは「たとえ蔵岡だけの堤防をかさ上げしたとしても、また他の地区に被害が及ぶ」と考え、中流域全体での対策が欠かせないと訴える。
大雨から3カ月が過ぎたいま、村は蔵岡地区の全世帯が集団移転する方向で国や県と協議を進めている。日ごろ住職らが常駐しない寺は移転対象ではないが、被災直後から駆け付けた延べ300人ものボランティアの手で、泥だらけだった位牌や墓石、床下も見違えるほどきれいになった。被災後、寺を訪れた檀家に笑顔が戻ったことが斉藤さんにとっての救いだ。
しかし復旧に向けて苦しむ檀家に修繕費用を募るわけにもいかず、ボランティアらの発案でクラウドファンディング(CF)に取り組む斉藤さん。「集落が移転することになっても、いつまでも住民の心のよりどころとなり続けるよう」寺を維持する考えでいる。【長南里香】
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