脱線事故と震災、生還者が語り合う「どう生きるか」 3日に講演会
毎日新聞 / 2024年11月1日 14時0分
JR福知山線脱線事故から来年で20年となるのを前に、事故で重傷を負った兵庫県多可町のデザイナー、小椋聡さん(55)が3日、東京都千代田区で講演会を開く。小椋さんが対談相手の1人に選んだのは、東日本大震災の津波から生還した宮城県石巻市の只野哲也さん(25)。事故と災害、状況は違えど生と死のはざまから生還した者同士が「わたしたちはどう生きるか」を主題に語り合う。
脱線事故は05年4月に兵庫県尼崎市で発生。大幅な速度超過で脱線し車両が線路脇のマンションに激突し、乗客106人と運転士が死亡、562人が負傷した。2両目に乗っていた小椋さんは全身を強く打ち、足の骨を折る重傷を負いながらも一命を取り留めた。その後、事故遺族の思いに応えようと妻朋子さん(56)とともに犠牲者の乗車位置を探し、負傷者の手記を出版するなど奔走した。
只野さんは震災当時、大川小学校5年生。学校は地震発生から約50分間、校庭にとどまる判断をし、避難を始めてすぐに津波に襲われた。自らは助かったが、妹を含む児童74人と教職員10人が犠牲となり、母と祖父も失った。
被災直後からメディアの取材に応じて証言した。仲間らと「母校を残して」と声を上げたことがその後の被災校舎保存の原動力にもなった。一方で、「奇跡の少年」と報道されることに違和感を覚え「自分は偶然助かっただけ」と葛藤してきた。只野さんが胸の内を明かした記事を読んだ小椋さんは「自分と同じ」と感じ、今年5月、講演会への参加を打診した。
只野さんは現在、「Team大川未来を拓(ひら)くネットワーク」の代表として、震災伝承や防災の発信、被災した古里の再生に情熱を注ぐ。小椋さんの活動や、「生きる」をテーマに講演会を開催することに感銘を受けた。それまで、広島で被爆者、熊本では水俣病患者らから話を聞き、共通する「命の大切さ」を実感を伴う言葉で伝えたいとの思いを強くしていた。小椋さんとの出会いに意味を感じ、「僕らがそれぞれ見てきた景色や目指す未来を共有できたら」と快諾した。
2人は講演会を前に、それぞれが命の危機に直面した現場を一緒に歩いた。小椋さんは7月、石巻市の震災遺構・大川小を訪れ、只野さんの案内を受けた。小椋さんは「被災校舎がそのまま残っていることに意味がある。脱線の現場は大きく変わって当時を思い起こせなくなった分、強くそう感じる」と話した。
9月下旬、尼崎市の事故現場を訪問した只野さんは「今もひっきりなしに電車が通過する中で小椋さんに案内してもらい、言葉を超えて伝わってくるものがあった」。自然豊かな多可町の小椋さん宅で寝食を共にし、地元の人と移住者が協力して地域を支えている様子を見て「震災前の古里の雰囲気がここにある。自分も大川で『震災で助かった先に、こんなまちづくりができたんだよ』と言えるようになりたい」と、地域再生への思いも新たにした。
今回の講演会では、脱線事故で重傷を負った福田裕子さん(40)も登壇する。トラウマに苦しんだ経験を経て「生きることに対する心の向き合い方が変化してきた。私の経験を一つの例として伝えられたら」と話す。小椋さんは「事故の代償は大きかったが、今は事故があって今の自分があると思える。それぞれ困難を抱える中で、自分の人生にどんな意味付けができるか、参加者とともに考えたい」と語る。
3日は日比谷コンベンションホールで午後1時から。参加無料。3人が体験を講演後、ライターの木村奈緒さん(36)が聞き手となり語り合う。来年4月にはそれらを含め、事故から20年の歩みをつづった書籍の出版を予定している。【百武信幸】
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