ガンダムの安彦良和さん、新作短編構想 ルーツの福島の銀山が舞台
毎日新聞 / 2024年11月11日 12時20分
アニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを手掛け、古代史や近代史をテーマにした漫画作品を送り出してきた安彦良和さん(76)が10日、福島県桑折町にあった半田銀山を舞台にした新作短編を描く構想を明らかにした。安彦さんは曽祖父が絵図面を描く仕事を担っていたことから半田銀山にルーツを持つ。実業家の五代友厚が半田銀山を再興してから150年を記念したシンポジウムに登壇し、創作への意欲を語った。
半田銀山は、一帯を治めることになった上杉氏が本格的に開発を始め、18世紀に江戸幕府の直営となり、佐渡金山(新潟県)、生野銀山(兵庫県)とともに「日本三大鉱山」に数えられた。幕末に閉山した後、1874年に五代が再開発に乗り出し、トロッコや新しい製錬技術を取り入れて近代化を図った。五代を後押しした大久保利通らを伴って明治天皇も訪れた。戦後は鉱石が枯渇して1950年に休坑し、76年に閉山に至った。
桑折町には、「安彦」と書いて「あびこ」と読む名字が多い。安彦さんは2023年4月、ガンダムの企画展で福島市を訪れた際、桑折町に足を延ばして自身のルーツを探った。町側の依頼で半田銀山シンポジウムのポスターの原画作りを引き受け、五代や大久保の雄姿に加え、画板を持つ曽祖父の兵太郞(へいたろう)さんも描き込んだ。
同町の町民体育館で開かれたシンポジウムでは、隣接する伊達市出身で声優の佐々木るんさんが聞き手となり、安彦さんが半田銀山とのゆかりを語った。兵太郞さんは半田銀山で絵図面師として身を立てており、先祖が名字に「あびこ」を選び、北海道に移り住んだ祖父の代で読み方を「やすひこ」に変えたのだという。安彦さん自身は北海道遠軽町で生まれ育ち、弘前大に進学したものの、学生運動に参加したことで中退し、上京してアニメの世界に入った。
今年、シベリア出兵をテーマにした「乾(いぬい)と巽(たつみ)―ザバイカル戦記―」を11巻で完結させた安彦さん。長編の断筆を宣言しているが、「『漫画家をやめるのか』って聞かれたら、いきなりやめたら、ぼけちゃうからやめない。短いものなら描く。先祖の話なんかも面白いかな」。ある出版社と新作短編の検討が進んでいることを明かし、「あんまり具体的な話はできない、もしかしたら描くかもしれない。その時は、半田を舞台にして、五代をサブ主人公にしたような話を描こうと思っている」と筋立てを示唆した。
シンポジウムで五代友厚顕彰会のメンバーが紹介した故・八木孝昌氏の研究によると、五代は半田銀山の操業に当たり、稲作への影響を防ぐため、排水を浄化する沈殿池を造ったり、稲作期間に工場を休んだりした。地元の農民側とは1876年に締約書を交わし、公害防止協定の先駆けといえる内容だった。1890年代に足尾銅山鉱毒事件が表面化するより前に対策が講じられており、安彦さんは五代の対策について「驚いた。やればできるんだ」と評価した。
シンポジウムに先立ち、周辺が半田銀山だった半田山自然公園や史跡を訪ねるスタディーツアーが行われた。半田山(標高863メートル)の中腹から裾野にかけて田園風景が広がる。ツアーで再訪した安彦さんは、半田銀山の印象について「なんとのどかで、美しいところか。五代、時代背景を含めて、いろいろなことで意味深い場所だ」と語った。【木村健二】
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