昨年度の捕殺は9000頭 動物写真家の考えるクマとヒトとの距離感
毎日新聞 / 2024年11月15日 15時0分
実りの秋。冬ごもりを前に、山ではクマが目撃される機会が増える。昨年度は餌となるドングリの凶作などから全国で出没が相次ぎ、9097頭(環境省調べ)ものクマ(ヒグマを含む)が捕殺された。
この夏出版された動物写真家・前川貴行さんの写真絵本「ともに生きる 山のツキノワグマ」(あかね書房)は、日本の奥深い自然と生き物の暮らしを守るヒントを伝えている。
共存の意味を作品に
被写体となったツキノワグマはつやつやした真っ黒の毛に覆われ、胸元に三日月の形をした白い斑紋を持つ。本州と四国に生息し、自然に溶け込むのがうまい。本来はひかえめな性格だが力が強く、人と出くわして事故に至る可能性もある。
作品は東北の豊かな自然のなかで、クマが湖で漁をする愛くるしい姿やハンターに撃たれて運ばれる姿などを写真に収め、思いのこもった解説をつづっている。
「日本は人間とクマの生活圏がとても近い国です。こんな大型種の動物が生きていける自然環境が残っていることは素晴らしいことです」
前川さんは20年ほど前からその美しさや力強さに引かれ、クマの撮影に力を注いできた。
北海道に生息するヒグマと合わせたクマ類の出没情報は昨年度、全国で2万4345件(環境省調べ)と過去最多だった。エサとなるブナなどの実が凶作だったことなどから人里に出てきたと見られるが、人的被害は219人に上り、1万頭近いクマが駆除された。
今年4月には鳥獣保護法にもとづき都道府県による捕獲などを国が支援する「指定管理鳥獣」に指定された。
こうした状況もあり、前川さんは「『共存』の意味を客観的な視点で伝える作品にしたかった」と話す。
◇それぞれの暮らしの「境目」を
今年度は昨年度に比べ全国的には出没頻度は低いとみられているが、地域によって状況は異なる。
昨年度は被害件数が全国最多だった秋田県は、出没状況が緩やかになったことから出没に関する「警報」を11月から「注意報」に切り替えている。
一方、島根県は山の実りの状況などから10~12月の出没数を「例年の147~271%」と増加を見込んでいる。
前川さんの写真絵本では、人とクマなどの動物が共存するために「動物の居場所と人の暮らしとの境目」を作ることの大切さが説かれている。
秋田県や島根県では、クマを人里に誘引してしまう恐れがあるので、人家の近くにあるカキやクリなどの果実を実らせたまま放置しないよう注意を呼び掛けている。【山崎明子】
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