「痛くない」インフルエンザワクチン 経鼻タイプの効果と注意点
毎日新聞 / 2024年11月15日 13時30分
全国的なインフルエンザの流行期に入り、予防接種の予約を急いでいる人が多いかもしれない。そんな中、「経鼻ワクチン」と呼ばれる鼻の中にスプレーする新タイプのインフルエンザワクチンの接種が、今秋から始まった。「痛くない」ワクチンとして、約20年前から海外では使われていたが、国内では昨年3月に承認を受け、実際の接種は今年10月から開始された。注射を嫌がる子を持つ親には新しい選択肢になりそうだが、注射するタイプのワクチンと比べて、どのような違いがあるのだろうか。
このワクチンは第一三共の「フルミスト」。専用の細いスプレー容器に入っており、鼻の穴のすぐ内側に先端を置いて、中に向けて左右1回ずつ噴霧する。鼻腔(びくう)の奥に入れるわけでなく、痛みはない。接種は1シーズンに1回で、2歳から18歳までを対象に承認された。
フルミストの承認審査報告書によると、2016年から17年のシーズンに、国内で2歳から18歳までの約900人を対象にした臨床試験では、偽薬(プラセボ)を接種したグループと比較して、インフルエンザの発症を28・8%抑える効果が確認された。副反応は、鼻づまりやせき、咽頭(いんとう)痛など風邪のような症状が多かったが、発現割合はプラセボグループと同じ程度だった。
注射タイプとの違い
接種法以外に従来のワクチンとの違いはどうだろうか。これまで接種されてきたワクチンは、ウイルスの病原性を完全になくして免疫を作るのに必要な成分だけにした「不活化ワクチン」なのに対して、フルミストはウイルスの病原性を極力弱めた「生ワクチン」になる。
効果に差はあるのか。日本小児科学会は9月、現在の両者の予防効果について「明確な優位性は確認されていない」との見解を公表した。海外での両者を比較した検討では地域や年によって異なるものの、全体として有効性の明らかな違いはないと判断されている。米国では、効果に疑念があるとして16年から18年の2シーズンに接種の推奨が中止されたことがあったが、他の地域で効果が確認されたことやワクチンが改良されたことから、18年から19年のシーズンに推奨が再開された。
一方でフルミストは生ワクチンのため、まれにワクチンのウイルス由来のインフルエンザを発症するリスクがあり、同学会は妊娠中や免疫不全の人のほか、授乳中の人や周囲に免疫不全の人がいる場合は不活化ワクチンを推奨する。また、ぜんそく患者についても副反応のリスクから不活化ワクチンを薦めている。
いずれかの接種検討を
フルミストは接種に伴う痛みがないことや針刺し事故を防げることが利点として挙げられる。他にも、12歳以下の場合は不活化ワクチンだと1シーズンで2回の接種が推奨されるのに対し、フルミストは1回で済むことなどがある。ただ接種可能な年齢などに条件があるほか、自治体によっては公的助成の対象外となっており、注意が必要だ。これまで国内では輸入ワクチンとして接種されていたが、国が承認したことにより、健康被害があった場合は従来のワクチンと同様、公的救済制度の対象になっている。
同学会の予防接種・感染症対策委員会の宮入烈副委員長は「注射が怖くて接種を受けられなかったり、注射した部位がひどく腫れたりする子どもにとって選択肢が広がった」と指摘する。インフルエンザは今月8日に流行期に入っており「どちらのワクチンも同程度に効果のあるものなので、重症化を防ぐためにも接種を検討してほしい」と話している。【中村好見】
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