「何年たってもそばに」 元教員ら鐘の絵を寄贈 奈良女児殺害20年
毎日新聞 / 2024年11月15日 19時5分
奈良市立富雄北小学校の1年生だった有山楓(かえで)さん(当時7歳)が下校中に誘拐・殺害された事件は、17日で20年となる。当時を知る学校関係者は今秋、遺族に鐘の絵を贈った。関係者の一人が2年前、遺族に寄贈した鐘をモチーフにしたもので、鐘と絵には「何年たっても、私たちは楓さんと家族のそばにいる」との思いが込められている。
鐘は事件当時の校長だった楳田(うめだ)勝也さん(79)=奈良市=が2021年秋、懇意にしていた舟宿の主人から譲り受けた。三重県沖の海に長い間沈んでいたとみられ、さびた状態で見つかった。楳田さんは地域の人たちと協力して鐘の汚れを落とし、カエデをモチーフにした支柱や台座を取り付けて楓さんの父茂樹さん(50)に贈った。「楓ちゃんがどこかで何かに姿を変え、よみがえって家族のそばにいるよ」と伝えたかった。
この鐘をモチーフにした絵は、当時3年生の担任で現在は別の小学校に勤める鶴原龍弘さん(48)=奈良市=が手がけた。日本画を学んだ経験のある鶴原さんは、楳田さんの依頼を受けて今夏から制作を開始。自身も楓さんの捜索に参加したことや遺族の心情、楓さんを忘れまいとする地域住民の思いに考えを巡らせ、絵筆を動かした。
完成した絵の背景は群青色を基調に雪白色を重ね、海や空を表現。水面が泡立ちながら鐘が引き揚げられていく様子を描いた。
鐘の周囲には楓さんを連想させるカエデを何枚もちりばめた。透かしを入れてあえて見えにくくしたカエデも描き、子どもたちが一枚一枚を探しながら長い時間をかけて鑑賞してくれるよう工夫を凝らした。鶴原さんは「深海から引き揚げられた鐘が楓さんの家族に届き、楓さんが雲の上で笑ってくれているところをイメージしながら書いた」と話した。
鶴原さん自身は鐘の実物を見たことがなく、写真を基に想像を膨らませて制作した。鐘の肌触りや色合い、重厚感を表現することが難しかったという。一度塗った絵の具を削り、また色を塗り重ねるなどして、鐘の持つ深い色合いを作り出した。「楓さんを思う人々の気持ちを重ね合わせていくような作業だった」と振り返り、「うれしくて、ありがたくて。本当に幸せな時間だった」と笑った。
絵は1日、楓さんが毎日通った1年2組の教室で、茂樹さんに贈られた。楳田さんや鶴原さんをはじめ、当時の教頭や地域で見守り活動を続けてきた人たちも集まった。茂樹さんは「今にも鐘の音が聞こえてきそうですね」と顔をほころばせた。
富雄北小では毎年、楓さんが亡くなった日の近くで追悼集会を開いている。今年の集会は15日に開催。黙とうに合わせて鐘を鳴らし、絵も子どもらにお披露目された。
20年前に経験したことや、楓さんのこと。折に触れて同じ職場の教員や教え子、保護者たちに伝えてきた鶴原さん。「毎日、元気に安全に学校へ通えることは、当たり前じゃない。あの日を忘れず、二度と同じようなことが起こらないよう、いまの子どもたちにできることをしたい」と語った。【林みづき】
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