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墨絵で描く命への祈り 79歳女性が絵本「ヒロシマねこ」刊行

毎日新聞 / 2024年11月20日 13時30分

鶴岡たかさんと絵本「ヒロシマねこ」の原画=広島市東区で2024年11月13日午後0時24分、宇城昇撮影

 戦前に建てられた自宅を古民家ギャラリーとして開放している鶴岡たかさん(79)=広島市東区=が、広島の街を駆け巡る愛猫に平和への思いを込めて墨絵で描いた絵本「ヒロシマねこ」をつくった。原爆投下時は生後4カ月で、父は遺骨も見つからなかった。水辺に生えるアシの穂など身近な雑草を筆にして、初めての出版作を手がけた鶴岡さんは「全ての命に祈りを込めました」と語る。

 作品はB5判28ページで、前文と後書き以外のページには文章がない。主人公は数年前に15歳で世を去った飼い猫「とび丸」で、家を出た後に近所の山から、原爆慰霊碑や原爆ドーム、繁華街などを巡るさまを描いた。自宅の周りにあるネコジャラシやアシなどに墨を付け、絵筆では出ない線のかすれが印象的だ。

 鶴岡さんが主宰する「古民家ギャラリーうした」(広島市東区牛田本町3)は1940年建築。「祖父が隠居のために建てたんです」という日本家屋は原爆の爆心地から北東に約2・3キロ。火炎に襲われた牛田地区で倒壊や焼失を免れた数少ない建物で、戦後は郵便局に使われた。古びた柱やはり、年代物の家具が趣を感じさせる。

 赤ん坊だった自分に原爆の記憶はない。父が当日出向いたはずの場所では、がま口の金属部分と自転車の鍵が見つかり、骨つぼに収めてある。兄や祖父も被爆後に亡くなった。高校卒業後に上京してデザインや洋画、染織などを学び、50歳のときに広島に戻った。同居していた母が亡くなった十年余り前から、自宅を開放して絵画教室などを開いている。

 「原爆小頭症」の患者への絵画指導を通じて支援者ともつながり、被爆証言の本に付ける挿絵を依頼されることも。今回の絵本は「思い付いたイメージを一気に描き上げてみたんです」。愚かな戦争を繰り返す人類がいなくなっても雑草はたくましく生き続けるだろうが、核戦争はそれすらかなわないかもしれない――。「命」への祈りを創作に込めた。

 絵本は日本機関紙出版センターから刊行。700円。古民家ギャラリーうした(082・221・5401)では11月末まで、原画を展示している。【宇城昇】

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