「事故に責任負えない」人気クライミングスポット閉鎖へ 訴訟影響で
毎日新聞 / 2024年12月1日 9時15分
埼玉県飯能市にあるクライミングスポット「阿寺(あてら)の岩場」が年内で閉鎖されることになった。小鹿野町の二子山で発生したクライマーの墜落事故を巡る訴訟について知った土地所有者が、「事故が起きたら責任を負えない」として決めた。訴訟では「事故が自己責任かどうか」などが争点となっており、係争中の裁判が、首都圏から近く初心者も楽しめることで人気の岩場にも影響を与えた形だ。
阿寺の岩場は、近くに住む大野文雄さん(84)らが市の補助金などを得て、樹木を伐採したり岩についた泥を取ったりして3年がかりで整備し、2013年にオープンした。幅約50メートル、高さ平均20メートルほどの岩場は、傾斜もさまざまで初心者から中級者まで楽しめる。民間主催で講習会も開かれるなど、週末には20~30人のクライマーが訪れる。
近くを走る道路沿いに駐車場を整備、道路から岩場までの通路横にはトイレも設置されている。利用者から環境保全費100円、駐車料金500円、トイレ使用料100円を徴収して、ボランティアらが岩場の修繕などに取り組んできた。
一帯は近くに住む女性(85)が所有している。大野さんらから「地域の発展のために協力してほしい」と頼まれ、岩場を無償提供してきた。しかし、高齢になり自身の健康にも不安を覚える中、二子山の墜落事故を巡る訴訟を知り、「事故が起きて訴訟になったら対応できない。路上駐車も目立ち、付近住民から苦情が出ている」ことから決断したと取材に語った。
岩場への通路には、11月下旬に「年内閉鎖」の看板が掲げられた。閉鎖を知って同23日に訪れた男性(66)は「開放された当時から利用しており、とても残念だ。ただ、今後事故が起きたらと考えると、仕方のない面もある」と話した。
大野さんは「ボルトの整備などボランティアの協力も仰いで安全面に注意を払い、事故はこれまで1件もなかった。利用は自己責任とし、事故が起きた場合に地権者やボランティアらには責任がないとする使用上の注意掲示もしてきただけに残念だ。なんとか存続できないかと思っているが」としている。
県山岳・スポーツクライミング協会の加藤富之会長は「岩場は、利用者の性善説と土地所有者の好意で成り立ってきた。最近は、社会情勢の変化や利用者のマナー違反もあって閉鎖されるケースが散見される。阿寺の岩場は、初心者が体験・学習しやすい貴重な岩場なだけに、協会としても利用継続できないか関係者と考えていきたい」と話している。【照山哲史】
早急な法整備が必要
日本勤労者山岳連盟の川嶋高志理事長の話 クライミングはもともと冒険的要素が強く危険を伴うだけに、事故が起きれば自己責任とされてきた。しかし、最近は五輪種目になるなどスポーツ的要素が高まり、岩場の所有者や管理者の責任が問われてもおかしくない状況になっている。山に関する法整備が進んだ欧米では、岩場のルートごとにスポーツかどうか区別する国もあり、そうしたケースでは事故の責任の所在を明確にできる。日本では法律がないため責任の所在はあいまいになりがちで、今回のようなことはどこでも起こりうる。山岳地帯の多い日本には魅力的な岩場が豊富にあり、インバウンド効果も見込めるだけに、早急な法整備が必要だろう。
二子山のクライマー墜落事故訴訟
二子山(1166メートル)で2022年9月に岩場から墜落して重傷を負った男性が「岩場の管理が適切ではなかった」などとして、岩場を管理する小鹿野クライミング協会と小鹿野町を相手に慰謝料など165万円の支払いを求め、さいたま地裁川越支部に提訴した。23年8月に開かれた第1回口頭弁論で、協会と町は「事故は自己責任」などと主張し全面的に争っている。その後は非公開で弁論準備が行われており、争点整理の手続きが進められている。
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