「苦しむ警察官が出ないよう」 長時間勤務で巡査自殺、母の願い
毎日新聞 / 2024年12月2日 14時17分
熊本県警巡査だった渡辺崇寿さん(当時24歳)が「地獄に落ちるよりも、明日が来るのが怖い」と遺書に残して命を絶ったのは2017年9月のことだった。遺族は、安全配慮義務を欠いて長時間勤務をさせたことが自殺の原因だとして、県に約7800万円の損害賠償を求めて提訴。熊本地裁で4日に判決が出るのを前に、母美智代さん(64)は「県警の責任を認め、たかのように苦しむ警察官が今後出ないような判決を」と求める。
「たか」――。崇寿さんの仏壇に手を合わせ、そう話しかける。美智代さんが続ける朝夕の日課だ。その日の予定、その日にあったことを欠かさず報告する。
崇寿さんは、警視庁の警察官だった父剛太郎さんに憧れ、高校卒業後の12年4月に熊本県警に採用された。剛太郎さんは、それを誰よりも喜んでいた。
だが、崇寿さんは17年4月に県警玉名署刑事課に配属されると、その約5カ月後の9月11日、遺書を残して自ら命を絶った。遺族側の代理人弁護士によると、亡くなる直前5カ月の当直勤務を含めた時間外労働は月平均130時間に上り、過労死ラインとされる100時間を超えていた。
崇寿さんが亡くなってから、剛太郎さんは仏前の前で1人で何時間も無言で座る日々を送り、18年夏に75歳で亡くなった。美智代さんは「自分に憧れて警察官になり、結果として自殺させてしまったということに思うところがたくさんあったはず」と振り返る。
署から遺族に原因の明確な説明はなかったが、署の調査結果には「要因の一つには常態化している長時間勤務が挙げられる」と記されていた。県警は当時、当直時間帯を労働時間に算入しない「断続的労働」として扱っていたため、基金の認定よりも月平均50時間ほど少なく記録されていることも判明した。
美智代さんは19年9月に地方公務員災害補償基金熊本県支部に公務災害の認定を申請し、20年11月に認められた。続いて22年5月、県を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。
県側は訴訟で、健康障害防止のための面接指導もしており、安全配慮義務違反はなかったなどと反論している。
原告側代理人の光永亨央弁護士は「常態化していた長時間労働が自殺の原因。裁判所は警察官の長時間労働について向き合うべきだ」と話す。
「たかと一緒に墓に入れてくれ」。剛太郎さんは亡くなる前、そう美智代さんに話していた。2人の遺骨はまだ墓に納めていない。美智代さんは言う。「良い判決を2人に報告して、一緒に納骨をしてあげたい」【野呂賢治】
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