被災仏像を応急処置、高知の仏師が能登で 「心の復興」への第一歩
毎日新聞 / 2024年12月4日 7時45分
高知県香南市の仏師、吉田安成(やすまさ)さん(49)が、今年1月の能登半島地震と9月の豪雨で大きな被害を受けた石川県の被災地に赴き、被災した仏像の応急処置に当たった。石川県加賀市生まれの吉田さんは「仏像や寺社は地域のアイデンティティーにかかわるもの。被災地のことを忘れないためにも、文化財が大切にされてほしい」と話す。地震発生から11カ月。「心の復興」につながる被災文化財への対応は緒に就いたばかりだ。【小林理】
吉田さんは妻沙織さん(48)と共に、11月12~16日に被災地に滞在。国の文化財レスキュー事業の一環で、穴水町、能登町、輪島市の五つの寺にあった18体の仏像の応急処置に当たった。
各寺では、地震で仏像が倒れたり、千手観音の手が外れたり、台座が破損したりしていた。吉田さんは高知から持参した接着用のニカワなどを使って、丁寧に外れた部材をはめたり、仏像をもともとあった場所に置き直したりして、できるだけ元の姿に近づくように当面の応急的な処置をした。バラバラになって保管されていた部材の紛失を防止したり、仏像の盗難を防いだりする効果も期待される。
地震と豪雨の両方で大きな被害を受けた輪島市の岩倉寺では、寺での作業が不可能だっため、穴水町の寺で秘仏の千手観音など2体の処置に当たった。初めて被災地に入り、五つの寺を回った吉田さんは「床が抜けたり、境内に大きなひび割れがあったりして、テレビなどで見る以上に生々しい被害の実態を感じた」と話す。
また、地域と寺の深いつながりを改めて強く感じる出来事もあった。ある寺では、お参りに訪れた高齢の女性が「公費解体される自宅を見に来た帰りに寄りました」と吉田さんに語り始め、涙ながらに家を失うつらさを吐露した。般若心経を泣きながら唱える人も見かけ、「こんな大変な中でも、心の片隅に仏様がいて手を合わせたいという人々がいる」と実感したという。
地蔵菩薩など5体の処置を受けた穴水町の明泉寺住職、川元祐慶さん(68)は「まずは復興の第一歩を踏み出すことができた。吉田さんにお願いできなければ、仏像は被害を受けたままの形だった。本当にありがたい」と話す。明泉寺では本堂の前にある石塔五重塔(国指定重要文化財)も倒壊が懸念されるほどの大きな被害を受けており、本格的な補修はこれからだ。
また、今回の文化財レスキュー事業を活用して、吉田さんに応急処置を依頼した僧侶の宮野純光さん(50)によると、吉田さん以外の仏師を含め、12月初めまでに40近くの寺院で応急処置がされる見通しだという。宮野さんは「現段階では、被害を受けた寺の建物の再建のめどは立っていないが、寺の中心である仏様の姿が元に戻れば、檀家たちの心の支えになると思う」と述べ、応急処置に駆けつけた吉田さんたちに感謝の念を示した。
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