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俺たちの物語 ミステリー作家・深町秋生さん、作品舞台が東北の理由

毎日新聞 / 2024年12月14日 8時45分

インタビューに答える作家の深町秋生さん=山形市で2024年11月22日、竹内幹撮影

 2025年1月にデビュー20年を迎えるミステリー作家の深町秋生さん(49)は出身地の山形を拠点に活動し、今日も田園風景に囲まれた地元の喫茶店や道の駅で原稿に向かう。東北に根を張って書き続ける理由を尋ねた。

 ――「“全編山形弁”がCOOL‼」。山形市で探偵業を営むシングルマザーを描いた「探偵は女手ひとつ」(光文社文庫)の帯の言葉だ。探偵と言っても、普段の仕事はサクランボ農家の手伝いや独居高齢者宅の雪かきなど便利屋同然という異色のヒロイン。作中で山形県内を舞台に次々起きる事件には、過疎や高齢化、貧困に苦しむ地方都市の実態が反映されている。

 「探偵ものって、なぜか都会が舞台になります。(米国)ロサンゼルスのダウンタウンを行くフィリップ・マーロウみたいな。そういう図式を崩したかった。田舎の清らかなところと清らかじゃないところを書こうと思いました」

 「(山形県出身の作家)藤沢周平が下級武士の悲哀を描いた作品などは、普遍性があるというか、どこの土地の人も『これは自分たちの物語だ』と解釈できるつくりになっています。自分もそこは目指しているところです。山形を書いてるようで、実はあなたの地方の物語ですよ、と。東京の人には『地方ってこうなってるんだ』という驚きを持ってほしいし、地方にいる人には『これは俺たちの物語だ』と思ってもらいたい」

 ――深町作品は、舞台が県外でも山形出身者がよく登場し、方言を話す。登場人物が生き生きとし、リアリティーが増す、と好評だ。

 「関西弁が出てくる小説は結構多い。だったら東北弁があってもいいだろうと。独特の雰囲気が出ますんで。新鮮だって言ってくれる人が多いですね。ただあんまりやり過ぎると濁音ばっかりになって読みづらくなるんで、ある程度マイルドにしています」

 ――自宅近くの喫茶店やコンビニエンスストアのイートインスペース、道の駅などで執筆する。自宅ではかえって集中できないという。一歩外に出れば山や田んぼののどかな風景に囲まれた中で、激しい暴力シーンを書く。

 「朝10時半くらいに起き、メールなどをチェックして11時半くらいに家を出ます。喫茶店などで執筆し、いったん家に帰って夜はまたネットカフェなどに行き、未明に寝る毎日。数年前から週1日土曜日は休むようにしました。その方が効率的だと分かったので」

 「コンビニは、人はいるけど多過ぎはしない。道の駅もサクランボのシーズン以外はガラガラでゆったりしてます。快適ですね」

 ――東京に住もうかと迷った時期もあったという。

 「デビュー作は華々しくはあったんですが、2作目、3作目は鳴かず飛ばずで金銭的に余裕がなかった。それが八神瑛子シリーズが急に売れたので、どうしようかなと」

 「でも、東京でパーティーに顔出して名刺交換したりとか、そんなことしたって意味はない。小説家は、いい小説を書いて、読んでもらって、またこの人に書いてもらおう、となって仕事を得ればいい。こっちは動かざること山のごとしでいて、(出版社から)山形に足を運んでくれる、そのくらいの小説を書きたいと思います」

 ――過疎や高齢化に加え、寒さや雪との闘い、濃密過ぎる人間関係……。故郷を礼賛するわけではない。だがのんびりした空気はよさだという。

 「毎日、目が覚めた時は『あの小説、どうしよう』と陰鬱な気分です。外に出た時に安らかな場所があるのは強み。東京は過密で息苦しいし、ストレスもたまります」

 ――同じ山形ゆかりのミステリー作家である柚月裕子さんと長岡弘樹さんを「横綱、大関級」と表現する。

 「自分は大相撲で言うなら、さすがに十両ではないんですけど、幕内の下位番付をうろうろしているような気がします。目指すは三役ってところです」

 「柚月さんには先輩面してたんですが、あっという間に抜き去られた。長岡さんも『教場』という強い作品を書かれた。『俺は山形の中ですらミステリー作家の3番手なのか』とがっかりします」

 「でも、あの人たちがいてくれるおかげでお山の大将にならずにいられる。こういう所でトップでいたら、ちやほやされて『文化人みこし』みたいなのに乗せられ、ちょっと知られた作家として、てんぐになっていたかも。お二人のおかげで図に乗ることもない」

 ――売れっ子となった今も、ブレーク前から住む山辺町のアパート暮らし。自分を追い込むためでもある。

 「酒が好きで。東京に住んだら、編集者などに誘われて飲んじゃいそう。山形市に住もうかとも考えましたが、それさえも酒場の誘惑に負けそうだったので振り払いました」

 「(日本)推理作家協会賞とか直木賞を取ってからくたばりたい、っていう向上心がいまだにあります。でも筆が遅いんです。最悪に遅い。なので絶対崩せないルーティンをつくって、何があっても亀のように毎日コツコツやるしかない。東京でコツコツは難しいですね」

 ――もがきながら、山形で書き続ける。著作のタイトルにならえば「作家は田園で書く」というところか。

 「特別、山形でという強い思いがあるわけではないんです。うまい酒とメシは他でもありますよ。でも、ここで生まれ育って、書きやすい場所がある。出ようかなっていう気持ちは今もありますけど、結果的には出られないんだろうな」【聞き手・長沢英次】

ふかまち・あきお

 1975年生まれ。山形県南陽市出身。山辺町在住。専修大卒。製薬会社勤務を経て作家に。2004年に「果てしなき渇き」が「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、翌年デビュー。代表作に「組織犯罪対策課 八神瑛子」「バッドカンパニー」「警視庁人事一課監察係 黒滝誠治」の各シリーズがある。「探偵は女手ひとつ」や続編の「探偵は田園をゆく」など山形を舞台にした作品も多い。デビュー作と「ヘルドッグス 地獄の犬たち」は映画化された。

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