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「半分は恥ずかしさと悲しさ」 授賞式後、被爆者が明かした本音

毎日新聞 / 2024年12月12日 17時23分

記念撮影する日本被団協の代表団とツアー参加者たち=中奥岳生さん撮影

 ノーベル平和賞の授賞式に合わせてノルウェー・オスロに渡航した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表団やツアー参加者は現地時間の12日朝、帰国の途に就きます。授賞式後をどのように過ごしたのでしょうか。一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」スタッフの浅野英男さん(28)による報告の最終回です。

「複雑な気持ちを持っている」

 授賞式から一夜明け、11日午前は現地の高校生と被爆者のみなさんが交流する「被爆者ユースフォーラム」に参加しました。

 日本被団協代表理事の田中聡司さん(80)やブラジル、韓国の被爆者の方が証言をし、受賞の受け止めを語りました。

 そこで田中さんの言葉にハッとさせられました。「自分はいま複雑な気持ちを持っている」というのです。

 田中さんはこう続けました。「ノーベル平和賞受賞の喜びが半分、もう半分は恥ずかしさと悲しさがある。私が住んでいる国が、核兵器を禁止して被害者を援助すると決めた核兵器禁止条約にそっぽを向き続けているからです」

 受賞を受けて、被爆者の声を聞き、大きな理想としての「核兵器のない世界」に注目が集まり関心も高まりました。

 しかし、被爆者のみなさんが達成したいと長年思ってきたことを思うと、現実はまだ遠く、課題も残されています。

被爆者の声をどう受け止めるか

 日米両政府はこの間、米国の核を含む戦力で日本を守る拡大抑止の協議をする日程に入りました。日本被団協が求めてきたものと反対の方向に進んでいます。

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるノルウェーでも、安全保障のために核兵器は必要という論理があります。

 核廃絶を訴える現地のNGOの人たちも、葛藤を抱えながら活動していると感じました。

 抑止か廃絶か――。

 その対立にどこまで意味があるでしょうか。問うべきは「核兵器廃絶は理想主義かどうか」ではなく「どうすれば廃絶を実現できるか」です。

 現地に滞在して、被爆者が語る体験やその言葉一つ一つが聞いた人の心に届き、歴史を絶対に繰り返してはならないと思う。そのことに国境はないと感じました。

 一方で、核兵器の問題を考えるときに少し違いがあるとも思いました。

核廃絶に向けてもっと議論を

 11日夕にノーベル平和センターで始まった企画展を見学した時のことです。日本被団協や被爆者の活動の紹介などが続き、最後に、被爆者のメッセージを緊迫した国際情勢と関連付けて紹介する展示がありました。

 案内してくれたスタッフは「なぜ今まさに自分たちが被爆者の声に耳を傾けなければならないのかというテーマで作ってある」と説明してくれました。「世界は厳しい状況にあるが、同時に希望も存在していて、自分たちが進んでいくべき明るい未来の方向性もあると示したかった」とも。

 もちろん、その切迫感の背景には、ウクライナやロシアとの地理的な近さもあるでしょう。

 しかし、日本に目を向けると、どうでしょうか。

 被爆体験の継承や証言の大切さは広く理解されています。その上で、被爆者のメッセージをしっかり学び、だからこそ今の情勢を踏まえて核兵器を使わせず、廃絶していくためにどうしたらいいかという議論をもっとしていくべきだと思いました。

 ノーベル賞委員会のヨルゲン・バトネ・フリードネス委員長(40)は授賞式の演説で「世界の安全保障が核兵器に依存するような世界で、文明が存続できると信じるのは浅はかだ」と指摘し、「核のタブーを守り続けるために努力しようではありませんか。私たちの生存は、それにかかっているのですから」と呼びかけました。

 受賞を受けて、次にどう行動するか。それが問われていると思います。【聞き手・椋田佳代】

あさの・ひでお

 1996年、茨城県生まれ。神戸大大学院修了後、米ミドルベリー国際大学院モントレー校で核政策などを学ぶ。日本原水爆被害者団体協議会などでつくる「核兵器廃絶日本NGO連絡会」のインターンとして、2022、23年の核兵器禁止条約の締約国会議に派遣された。24年4月から一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」専従スタッフ。

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