紀州のドン・ファン死亡 「覚醒剤を過剰摂取の可能性」判決で指摘
毎日新聞 / 2024年12月12日 19時42分
和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77歳)を急性覚醒剤中毒で死なせたとして、殺人と覚醒剤取締法違反の罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判の判決で、和歌山地裁は12日、無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。福島恵子裁判長は「野崎さんが覚醒剤を誤って過剰摂取した可能性がある」と述べた。
被告は2018年5月24日に野崎さん宅で、何らかの方法で致死量の覚醒剤を摂取させたとして起訴された。9月から始まった公判で被告は「殺していません」と無罪を主張。被告が殺害したとする直接的な証拠がなく、28人に及ぶ証人尋問が実施された。
主な争点は、野崎さんは覚醒剤の摂取で殺害されたのか(事件性)▽事件であれば被告が殺害したのか(犯人性)――の2点だった。
判決はまず、野崎さんの死亡直前に被告が自宅で2人きりになる時間帯があり、その間に野崎さんがいた2階と1階を頻繁に行き来していたと認定。多額の遺産を相続できることも動機になり得ることから「殺害を疑わせる事情はある」とした。
ただ、被告が入手したとされる覚醒剤については密売人の1人が「氷砂糖」と主張していることを踏まえ、「間違いなく覚醒剤であったと言い切れない」と指摘。2階での被告の行動が明らかになっていないことも考慮すると、「覚醒剤を摂取させたとまでは推認できない」と判断した。
検察側は被告が「覚醒剤 死亡」「完全犯罪」などとインターネット上で頻繁に検索していたと主張したが、これも被告が殺害したと言える事情にはならないとした。第三者の関与も否定したうえで、野崎さんが死亡当日に普段通り仕事をしていたことなどから自殺の可能性もないとした。
そのうえで、覚醒剤を常用していた形跡がない野崎さんについて検討し「初めて覚醒剤を使用し、誤って致死量を摂取して死亡した可能性がなかったとは言い切れない」とし、起訴内容の証明がないと結論付けた。
和歌山地検の花輪一義次席検事は「検察官の主張が受け入れられなかったことは残念だ。判決文の内容を精査し、上級庁とも協議のうえ、適切に対応したい」とのコメントを出した。【藤木俊治、駒木智一】
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