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「日本のアンデルセン」久留島武彦 本貴重な時代に各地で“口演”

毎日新聞 / 2024年12月15日 9時45分

久留島武彦記念館の入り口にある壁画を説明する金成妍館長=大分県玖珠町で2024年11月6日、田後真里撮影

 「継続は力なり」。これは児童教育に尽力し「日本のアンデルセン」と呼ばれた久留島(くるしま)武彦(1874~1960年)が残した格言だ。今年は生誕150年。久留島の魅力を伝え続ける人たちを訪ねた。

 久留島は現在の大分県玖珠(くす)町出身で、中学時代に米国人英語教師ウェンライトとの出会いを機にキリスト教を信仰し、関西学院(兵庫県)へ進学。語学力と文才を生かし新聞記者を務めた他、明治~昭和期に童話を暗唱して即興で演じる「口演」で全国各地や東アジアを巡った。日本にボーイスカウトを伝え、デンマークで童話作家アンデルセンの博物館設立のきっかけを作った。

 玖珠町には町立久留島武彦記念館があり、2017年の開館時から金成妍(キムソンヨン)さん(46)が館長を務める。韓国・釜山出身の金さんは、九州大大学院時代の04年、文芸評論家の花田俊典教授から受け取った本で、久留島に初めて触れた。

 「名字の読み方も分からない」と当初は本棚へしまい込んだが、数日後に教授が急死。本を再び手にし、久留島の多彩な活動を知るとともに学術研究が少ないことを知った。「これは恩師からの宿題」と受け止め、久留島の口演童話活動を博士論文のテーマに定めた。

 東京の国会図書館や、韓国の図書館で当時の新聞を調べた。その過程では、日本統治時代の京城(けいじょう)(現在の韓国・ソウル)で子どもたちの視線を集めて屋外で口演する久留島の写真を見つけた。

 本が貴重な時代に「子どもたちの膝の前のともだちでありたい」と考え、鉄道がない地域には自転車で出向き、少年刑務所も訪問。口演を86歳で亡くなる2カ月前まで重ねた。金さんは「信じて助け合い、違いを認め合うことの大切さを楽しいお話に乗せて子どもたちに直接伝え続けた」と功績を語る。

 金さんは博士論文で久留島武彦文化賞を受賞。その後、玖珠町から久留島武彦研究所の所長に任命され、記念館に準備段階から携わっている。

 福岡県春日市の子どもの本専門店「エルマー」の代表、前園敦子さんも久留島に魅了された一人で「優しさや思いやり、つながりといった、人が生きていく上で大切なメッセージがさりげなく織り込まれている」。

 作品の多くはリズミカルで、親に働きかける力も感じる。動画サイトに頼った子育てが広がる現代にあって、前園さんは「良書はそれぞれの心に残る。子どもたちの未来のため、大人が読んであげる時間を大切にしてほしい」と語る。

 記念館では、久留島の口演の肉声を聴ける。金さんは「朗々とした力強い声を聴きに玖珠に来てください」と呼び掛けた。記念館(0973・73・9200)。【田後真里】

新聞に童話連載も

 久留島は1896年、東京日日新聞(毎日新聞の前身)に「暑気生」のペンネームで挿絵を描き、陸軍書記として台湾測量に同行した際の記録を連載した。1901年には大阪毎日新聞に入社。子ども向けの欄「幼稚園」を設け、園長として童話を連載。「大毎小学生新聞」(現在の毎日小学生新聞)が36年12月22日に創刊した際、顧問として携わった。

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