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パッケージで旅した時代 「観光たばこ」数千点、大学美術館に寄贈

毎日新聞 / 2024年12月16日 13時36分

2022年に数千点の観光たばこのパッケージを寄贈した加藤寛之さん=埼玉県坂戸市の城西大水田美術館で2024年11月13日、加藤佑輔撮影

 全国各地の観光地などのデザインが施された「観光たばこ」のパッケージを10年以上かけて収集した人がいる。元城西大職員の加藤寛之さん(68)=埼玉県飯能市在住。2022年に大学を定年退職する際に数千点のパッケージを全て城西大水田美術館(同県坂戸市)に寄贈し、今秋には同館で展示会も開催された。取材中「よく誤解されますが、私は世間でいうコレクターではありません」と強調した加藤さん。なぜ集めるようになったか尋ねると――。【加藤佑輔】

 ――観光たばこについて教えてください。

 ◆全国の観光地や祭りをPRしようと、1967年度から93年度の期間限定で製造されたたばこです。マイルドセブンやピース、チェリーといった銘柄のパッケージにデザインが施されており、風景の美しさや時代の懐かしさを感じられることからコレクションアイテムとして人気があります。観光たばこの歴史をまとめた資料はほとんど無く、世の中で何種類のパッケージが流通していたかは分かっていません。

 ――ご自身の観光たばことの出合いは?

 ◆約15年前にたまたま立ち寄った東京都内の古書店で、大量のパッケージをとじたファイルが販売されているのを見つけました。ファイルを開くと、全国各地の名所や祭りの様子がずらりと並んでおり、「たばこにこんなに面白い世界があるのか」と衝撃を受けました。店で販売されていたファイルを数冊購入し、以降もインターネットオークションなどで少しずつ買い足すようになりました。

 ――いわゆるコレクターになったのでしょうか?

 ◆コレクターというと、自分自身が鑑賞して楽しむ目的が強い人というイメージですが、私の場合はそうではありません。当時は大学職員でしたので、学生に地域を研究する資料として役立ててもらいたいという思いでした。全国から集まる学生の誰もがパッケージの中から自分の地元を見つけられたらうれしいだろうな、とも。結局、在職中は研究資料として使ってもらう機会は無かったのですが、退職の際に集めたパッケージは全て、大学が運営する美術館に寄贈しました。

 ――今年9~10月には美術館で展示会も開催されました。

 ◆企画・監修もさせていただき、ようやく学生にもお披露目できてうれしく思っています。会場では寄贈した中から厳選し、70~80年代に製造された362点を展示しました。「鎌倉の大仏」(神奈川)や「富士山」(山梨・静岡)、「阿波踊り」(徳島)など47都道府県にまつわるパッケージを並べました。埼玉県にちなんだものでは、秩父神社(秩父市)の例大祭「秩父夜祭」や、氷川神社(さいたま市大宮区)の神事「大湯祭(だいとうさい)」などを展示しました。

 ――観光たばこの魅力は?

 ◆今では見られなくなってしまった各地の姿に思いをはせることができる点ですね。例えば、能登半島地震で崩落被害が出た石川県珠洲市の名勝「見附島」(通称・軍艦島)の写真を採用したパッケージには、崩落前のかつての様子が収められています。石灰岩の採掘地として有名な武甲山(埼玉県秩父市・横瀬町)のパッケージには、採掘で山肌が大きく削り取られる前の貴重な写真が使われています。パッケージの一つ一つに当時の時代背景や、現在の姿に至るまでの変遷を読み取れる要素があり、各地域の研究資料として価値があると考えています。

 ――今後もお披露目する機会はありそうですか?

 ◆寄贈品の今後の使い道は美術館側にお任せしています。個人的にはいつか再び展示会を開いたり、学生の研究資料として活用してもらえたりするとうれしいですね。

加藤寛之(かとう・ひろゆき)さん

 1956年生まれ、埼玉県飯能市出身。城西大卒業後、同大の事務職員として学生募集や広報などの業務に従事した。趣味は飛行機プラモデルの製作。非喫煙者。

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