「最後の宮大工」が守った木の文化 平城宮跡復元は“奈良の総力戦”
毎日新聞 / 2024年12月17日 12時56分
納入したヒノキ材で建てられた復元朱雀門の写真を手に、平城宮跡が全国植樹祭会場となったことを喜ぶ井上幸夫さん(左)と息子で現在、金幸の社長を務める幸久さん=桜井市の自宅で2024年12月12日午後2時48分、皆木成実撮影
第77回全国植樹祭(2027年)会場に11月決まった世界文化遺産・平城宮跡(奈良市)は奈良県の木の伝統文化を生かし、古代宮殿が当時の技法と材料で復元されている。事業は研究者や宮大工に加え「吉野林業」で知られる林業関係者も携わる“奈良の総力戦”。用材確保に尽力した製材の町・桜井市の業者から「感無量だ」と喜びの声が上がった。
宮跡での植樹祭は2回目で、1回目の1981年の際は一面の原っぱだった。景観を一変させる古代宮殿復元は93年の朱雀門から始まった。ただ担当した奈良国立文化財研究所(奈文研、現奈良文化財研究所)を悩ませた問題が用材確保。主柱に使う原木で直径1メートルのヒノキの巨木は通常、市場に出回らない。
戦時中や高度経済成長期の乱伐から樹齢200年以上の国内産ヒノキは激減。奈良・薬師寺伽藍(がらん)復興など戦後の文化財再建を支えた用材、台湾製ヒノキは93年当時、既に伐採が禁止されていた。代案として浮上したのが、2025年大阪・関西万博の木造巨大屋根「リング」でも使われている小さな木を貼り合わせた「集成材」だった。
「接着剤が木材の命奪う」
「のり(接着剤)が木材の命を奪う。200年が(耐久性の)限度でしょうな」。取材で意見を聞かれた斑鳩町の薬師寺宮大工棟梁(とうりょう)、西岡常一さん(1995年に86歳で死去)は批判した。「最後の宮大工」と尊敬を集めた西岡さんは「樹齢1000年の木を使う際は、1000年もつ建物を造る」と自然に敬意を払う技術者だった。
「うちなら国内産でそろえられます」。助け舟を出したのは桜井市の社寺建築用材「金幸」社長(当時)の井上幸夫さん(83)。入札を受けた井上さんは奈良・吉野や和歌山・熊野の山主に「紀伊半島の林業が試される国家事業」と頭を下げた。江戸後期創業の金幸の信用もあり、94年には樹齢200年以上の巨木40本が集まった。江戸時代の造林で植樹され、各山主が守ってきた「山の宝」だ。2001年に着工した第1次大極殿復元も用材を金幸が担当。宮跡は平城遷都1300年祭(10年)会場になったが、復元宮殿は万博のような一過性のイベント用でなく、1000年もつ建築として建てられた。
植樹祭では天皇皇后両陛下が奈良ゆかりの木を宮跡に植える。社長職を次男の幸久さん(51)に譲った井上さんは「復元宮殿を見ていただき、木の文化を県民ぐるみで守っていることが陛下に伝わればうれしい」と話している。【皆木成実】
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