警視庁、大川原化工機の冤罪巡る公益通報への連絡放置 違法の可能性
毎日新聞 / 2024年12月24日 8時0分
化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件で、警視庁が2023年、捜査の違法性を指摘する公益通報を3件受けたにもかかわらず、通報者に調査の可否を3カ月以上、通知しなかったことが判明した。公益通報の調査の可否は、受理から20日以内に通報者に伝えるものと解されており、有識者は公益通報者保護法の趣旨に反すると指摘する。
また、警視庁は調査の着手時期や進行状況について、通報から1年以上たった今も通報者に伝えていない。有識者には、調査をしていない可能性を指摘する声もある。
ファクスされた32枚の「内部告発」
関係者によると、3件の公益通報は23年10~11月、警視庁の警察官が内部通報窓口にファクスで送信した計32枚の文書。
冒頭に「大川原化工機事件捜査について、法令違反があったので、内部通報を行います」と記されていた。
内容は①大川原化工機の同業者の聴取結果を記した報告書が、実際には聴取せずに作られた報告書だった②大川原化工機元取締役の供述調書を取調官がシュレッダーで故意に細断したのに、過失だとする報告書が作られた③噴霧乾燥器の温度実験で、測定データの一部を除外する報告書が作られた――とするもの。
それぞれ虚偽有印公文書作成・同行使、犯人隠避などの刑法犯に当たるとして、関わったとされる警視庁公安部の捜査員の調査を求める通報だった。
通報者の警察官は匿名で、連絡先として私有のメールアドレスが記されていた。
問い合わせを受けるまで「放置」
通報窓口は、警察官の懲罰を担当する監察部門がある警視庁人事1課。人事1課は、①②についてはファクス受信から5日以内にメールで通報者に受理連絡をしたが、調査するかどうかを伝えず、③は受理連絡もしなかった。
24年2月、通報者から受理の可否や調査状況を問い合わせるメールがあり、人事1課は3月に「気付くのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。しっかりと調査させていただきます」と返信した。①の通報から5カ月近く、③の通報からも3カ月以上たっていた。
しかし、人事1課はその後に一切の連絡をせず、現在に至るまで調査の着手時期や進行状況について通報者に伝えていないという。
消費者庁が定めている公益通報者保護法の指針やその解説によると、企業や行政機関は内部通報を受理した場合、原則調査しなければならない。正当な理由があれば調査を免除されるが、解決済みの事案に関する通報の場合などに限られる。
調査する場合の着手時期や、調査中の進行状況も適宜知らせるのが望ましいとされている。
法律上、通報から20日たっても調査の可否を通知しない場合、通報者がマスコミなどに外部通報をしても、通報を理由とした解雇など不利益な扱いは禁止される。この「20日ルール」もあり、調査の可否は20日以内に通知する必要があると解される。
有識者「調査実施は大きな関心事」
公益通報者保護法に詳しい淑徳大学の日野勝吾教授は「通報者にとって調査を開始するかどうかは大きな関心事。調査されないと不正行為が是正される見込みがないと考え、外部通報を検討せざるを得ない。法の趣旨や指針の解説からすると、事業者は通報者に充実した情報提供をすることが求められる」と指摘する。
内部告発に詳しい上智大の奥山俊宏教授は「なされるべき『必要な調査』がなされた形跡がなく、しかも通知もないのだとすれば、警視庁の内部通報制度の運用の不適正を疑わざるを得ない。もし仮に調査が長期間なされていないとすれば、公益通報者保護法によって警視庁が義務づけられる体制整備を怠るものだ」としている。
3件の通報のうち②③については、通報後の3~4月に大川原化工機側が刑事告発した。捜査した警視庁捜査2課は11月、警察官3人の捜査結果の書類を東京地検に送付している。
警視庁は取材に「内部通報は性質上、通報の有無を前提としてお答えすることはできない」と具体的なコメントをせず、調査しているかどうかも明かさなかった。【遠藤浩二】
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