「打ち方にも人生」 Uターンした女性専用マージャン店主の気づき
毎日新聞 / 2024年12月31日 8時30分
青森県弘前市に全国でも珍しい女性専用のマージャンサロン「北紅(きたくれない)」がある。店主の遠山智子さん(43)は、最高位戦日本プロ麻雀(マージャン)協会所属のプロ雀士。会社勤めをしながらプロ生活を送り、体調を崩したのを機にUターンして開業した。【聞き手・江沢雄志】
――プロ生活は10年を超えたが、元々は体育会系でスポーツに関わる仕事がしたかったという。
◆マージャンに初めて触れたのは小学生の頃。父のパソコンに入っていたソフトで遊びました。中学、高校はバスケ部で、大学でもスポーツ科学を勉強し、バスケ部の学生トレーナーでした。その間も時々遊んでいて、ゲームセンターでオンライン対戦するようになってからは、本を読んで独学で役を覚えるほど好きになりました。
――趣味が仕事になるまでには紆余(うよ)曲折があった。
◆大学を卒業する頃は就職氷河期で仕事を選べるような状況ではなく、内定をもらった会社でバリバリ働きました。午後11時まで仕事をして、帰りに息抜きがてらゲームセンターに駆け込んで1局打つ。それが生活の癒やしでした。
そんなある日、急に仕事に行けなくなったんです。正確には会社に行ったんですが、何も手につかない。病院に行くと、抑うつ状態と診断されました。よく考えると、3カ月間休みが取れていませんでした。家から出られず、何もできない状態が続きました。そんな時、初めて何かしたいと思えたのが、マージャンだったんです。ゲームセンターに行くためにお風呂に入って身なりを整え、1週間ぶりに外に出た時の気持ちは忘れません。
――マージャンを打ちに行くのを習慣化することで、生活を立て直した。趣味以上の存在になっていった。
◆会社を辞め、双極性障害と診断されました。フリーターをしていた時、時間ができたのでジャン荘で生身の人を相手に打つようになり、週6、7回通っていました。
13年末、ジャン荘オーナーの女性プロから「そんなに好きならプロテストを受けてみないか」と誘われた。ルールを猛勉強し、翌14年にダメもとで受験したところ合格。再就職もして、平日は会社員、土日はプロとしてリーグ戦に参加していました。
――二足のわらじの生活は充実していたが、心身への負担は小さくなかった。
◆3年余り、仕事を続けながらリーグに出ていましたが、また調子が悪くなり、これ以上一人で東京で過ごすのは難しいと思うようになりました。17年11月に弘前へ帰ることを決め、戻ってからは地元のカルチャースクールで講師を務めました。マージャンサークルに通うようになり、参加者から「女性だけで打つ場がほしい」という声をもらったんです。
――20年に女性だけのサークルをつくった。世代を超えて参加者が交流する様子に心が動き、21年1月に店を開いた。今では100人以上の会員がいる。
◆打ち方にそれぞれの人生が集約されている。そんなに親しくない人とやっても2~3時間で人となりが分かるくらいコミュニケーションツールとして優秀だと思います。お金を賭けなくても純粋に競技として面白いことを知ってもらいたいと開店を決めました。
私の夢は老若男女みんなでマージャンを打つこと。男性が圧倒的に多い世界なので、女性のマージャン人口を増やしたいと思い、女性専用にしました。
――今はマンガやトッププロによる「Mリーグ」の影響で10代でマージャンを知る若者も少なくない。店の最年少会員も20歳だ。
◆店に来たことをきっかけに趣味になった初心者がいる。ここでなければ打てないという会員の人もいて、なんとかして続けないといけないなと思っています。家族の支えもあって、弘前に帰ってからはずっと体の調子もいいので。
――店名の「北紅」はリンゴの品種。サークル会員の案を採用した。趣味は津軽地方の伝統的刺しゅう「こぎん刺し」。職人とのコラボレーションで津軽塗のマージャンパイを製作し、話題となった。
◆やむを得ず東京からUターンしてきましたが、せっかくここで店をやっているので、伝統文化も大事にしたい。都会に比べれば不便な青森ですが、いろんな世代が気軽に集まって、コミュニケーションを取れる交流の場が作れたらと。1人でも多くの人にこの競技の面白さを知ってもらうことが、マージャンへの私なりの恩返しになると考えています。
とおやま・さとこ
1981年弘前市生まれ。県立弘前高、早稲田大卒。2014年に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロ試験に合格した。22年から同協会東北支部所属。「(お金を)賭けない、(酒を)飲まない、(たばこを)吸わない、」をルールに、女性専用マージャンサロンを経営。5歳下の妹と共に初心者向けの教本を作成し、競技人口の裾野拡大に取り組む。
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