首都圏からの移住者、岩手の山林で「自伐型林業」を始めた理由
毎日新聞 / 2025年1月1日 8時30分
岩手県釜石市の三木真冴(しんご)さん(39)は「自伐型(じばつがた)林業」の実践と普及に取り組んでいる。現在主流となっている事業者による大規模伐採型の林業と異なり、個人が間伐した木材を販売しながら山林を長期間維持することを目指す。首都圏から移住した三木さんは、地に足の着いた山仕事に可能性を見いだしている。【聞き手・奥田伸一】
――どんな経緯で自伐型林業に取り組むことになったのですか。
◆私は埼玉県で生まれ育ち、林業はもちろん東北とも縁がありませんでした。岩手には2011年3月に発生した東日本大震災の復興支援で初めて訪れました。
勤めていた東京の会社を退職し、12年1月に国内外で活動するNGO(非政府組織)の職員に転じました。復興支援の拠点だった遠野市に移り、翌13年に釜石市に転居しました。仕事は移動図書館の運営や公立図書館の再建支援でした。
そこで厳しい現実に直面しました。公立図書館は地域の生涯学習を支える大切な施設ですが、自治体が財政難のため思うように本を購入できないのです。
図書館での経験から地方で住民の生活水準を維持するには、自治体の税収を増やす必要があると考えました。定住して働き、納税者になろうと思いました。農業など他の選択肢もありましたが林業を選びました。営林署の職員だった男性と出会い、山の魅力を知ったことも大きいです。
――なりわいとして林業を選び、更に「自伐型」に取り組むことになったのですね。
◆16年に釜石地方森林組合が主催した林業スクールに参加し、現在の林業は事業者による大規模伐採が中心で国の補助金頼みであることを知りました。自立するにはどうしたらよいか考え、個人が担い手となる自伐型林業にたどり着きました。
――自伐型林業と現在主流となっている林業の違いは。
◆現在の林業は、多くの山林所有者が伐採をはじめ管理や経営を事業者に委ねています。事業者は約50年周期で山の木を全て伐採し、木材として販売します。その後植林する山もあれば、放置される山も多いです。
事業規模が大きくなるため、購入費用も運転経費も高額な大型機械が必要です。大型機械は生産性が向上する半面、採算を取るため伐採面積が拡大する傾向があります。
苗木を植えてから伐採するまで相応の費用が掛かりますが、この間の収益はごくわずかです。しかも近年の木材価格では伐採までに掛かった費用を回収し、利益を得ることはよほど広大な森林の所有者でもなければ困難です。多額の赤字が出るため、高額の補助金で穴埋めせざるを得ません。補助金ありきの事業となっています。
一方、自伐型林業は個人が山林を少しずつ間伐し、間伐材を販売することで収益を得ながら、山林を長期的に保全することを目指しています。従来型の林業より伐採する面積が小さいため、初期投資や作業時のコストが低額で済みます。大規模伐採型に比べて短い周期で収益を山林所有者に還元できます。
――自伐型林業は環境保全にもつながるのですか。
◆16年8月に台風が戦後初めて東北の太平洋側に上陸し、大きな被害が出ました。釜石の山間部でも放置された倒木が川に流入したり、伐採した跡地が崩落したりしました。
山林は全て伐採してしまうと保水力や生物の多様性など多様な機能の大半が失われ、元に戻るまでに時間がかかります。一方、自伐型は大規模伐採型より長期間に渡って山林が維持されるので、機能も保たれます。
――自伐型林業を今後どうやって普及させていきますか。
◆多くの山林所有者は自分の山を負債と考えています。手入れが難しく、木材価格も低いからです。私は山林を資産と思えるようにしたい。それには手入れを続けながら低コストで間伐材を出荷し、短い周期で所有者に利益を還元できる自伐型林業が適しています。16年11月に「東北・広域森林マネジメント機構」を設立し、山林作業や作業道整備の研修会を開いています。24年11月には釜石で開催しました。
――自伐型林業は岩手にどんなメリットがありますか。
◆岩手県の森林面積は県全体の77%を占め、全国で北海道に次いで2番目に広大です。岩手は良い素材はあるが「ブランド化」が苦手と言われます。自伐型林業で持続可能な山林を広めることで美しい森づくりを進め、岩手の魅力向上に貢献できればと思います。
みき・しんご
1985年生まれ、埼玉県大宮市(現さいたま市)出身。桜美林大(東京都町田市)で国際協力を専攻し、卒業後カンボジアで1年間活動した。「東北・広域森林マネジメント機構」で代表理事を務めながら、岩手県内で計600ヘクタール超の山林を管理している。
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