「光はどこかにある」 被害者遺族、更生支援の傾聴 大阪・医院放火
毎日新聞 / 2024年12月24日 14時35分
26人が犠牲となった大阪・北新地のクリニック放火殺人事件で、死亡した西沢弘太郎院長(当時49歳)の遺族が犯罪を犯した人の支援に携わり始めた。事件の背景には容疑者の孤立があったとの指摘があり、遺族は「加害者も被害者も生まない社会を実現できれば」と語る。
西沢院長の妹伸子さん(47)。2021年の事件後、どうして兄や患者、医院のスタッフらが被害に遭わなければならなかったのかを考えてきた。容疑者はクリニックを利用していた患者。刑務所から出所後に孤立を深め、経済的にも困窮した末に他人を巻き込む「拡大自殺」を起こしたとの見方がある。こうした事情を知り、事件に及ぶ人を生まない加害者支援が重要だと思うようになった。
23年末、刑務所の出所者や薬物の依存症患者らの立ち直り支援をしている団体があると知った。一般財団法人「ワンネス財団」(本部・沖縄県南城市)。連絡を取って月に数回、奈良県大和高田市にある法人の施設に通うことにした。
一日数人から約1時間ずつ話を聞き、これまで40人以上の利用者と接してきた。中には、薬物で何度も服役した人も。「相手の本音や抱える悩みを引き出さなければ、更生支援にはつながらない」。細かい仕草も見逃さぬよう聞き役に徹し、一緒に過去をたどった。家庭環境に恵まれず、愛情不足や孤立から犯罪に手を染めたのではと思う人もいた。
20代の男性は母親が殺され、加害者も死亡したという話を打ち明けてくれた。「抱え切れない怒りをどうしたらいいんだろう」と吐露する男性。伸子さんも理不尽な事件で兄を亡くし、「なぜ私はこの悲しみや苦しみに向き合う必要があるんだろう」と悩んだ経験がある。ただ、心理に関する本を読んだり誰かに話を聞いてもらったりするうち、次第に物事の捉え方や意識が変わっていった。「つらい出来事も理由があって起きている。闇の中にいると思っても、どこかに光はある」。自分一人の力でその光を見つけるのは難しい。男性には視点を変えてみてほしいと思い、こう語りかけた。「自分の人生を楽しまないと。憎しみや怒りを持たない生き方もできますよ」
思いがけない伸子さんの言葉に、男性はきょとんとしていたが、悩みを話し「スッキリした」とも言ってくれた。アドバイスが役に立ったのか、男性からはその後、新しくアルバイトが決まったという連絡もあった。「その人の表情や人生の風向きが変わった瞬間に立ち会えるのがうれしい」。更生支援は簡単でないが、話を聞くことで立ち直りのヒントを一緒に見つけようとしている。
伸子さんは今年、京都・大阪両府内で刑務所にも足を運んだ。黙々と作業をする受刑者を目にし、「これが本当に更生や再犯防止につながるのかな」と疑問を抱いたという。「刑務所にいる人たちの話や思いを受け止められる人がもっと必要ではないか」。今後はこれまでの活動で知り合った人を通じ、刑務所で話を聞く活動もしていきたいと考えている。来年には刑務官や受刑者への講演もする予定だ。
「一人一人が自分自身を幸せにする。誰かの話を聞いてあげる。そうして支援の輪を広げることができたら、犯罪も少なくなっていくはず」。伸子さんはそう信じている。【林みづき】
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