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大阪医院放火受け「悩み話す場を」 夫婦が作った「止まり木」

毎日新聞 / 2024年12月25日 6時15分

オンラインサロンで元患者らと話す川田祐一さん(左)、直美さん夫妻=大阪市都島区で2024年11月9日午後8時14分、斉藤朋恵撮影

 大阪・北新地の心療内科クリニックで2021年に起きた放火殺人事件で、クリニックに通っていた人々が集まれるオンラインサロンをある夫婦が運営している。クリニックを利用していた知人が事件で亡くなったほか、相談先に悩む患者が大勢いるのを知ったのがきっかけだ。

 夫婦は障害者支援の事業所を運営する川田祐一さん(52)と妻直美さん(52)。事業所が近かったこともあり、利用者の中には事件の現場となった「西梅田こころとからだのクリニック」に通院する人もいた。事件ではこのうちの1人が、グループワークなどで復職を目指すリワークプログラムを受けている最中に犠牲になった。川田さんは「優しく真面目な人で、一生懸命に生きていた。前を向いて頑張っていたのに……」と振り返る。

 クリニックを利用していたメンバーの中には、顔見知りの元患者を何人も亡くしたり、日ごろの悩みを打ち明けられる相談先の確保に困ったりして動揺が広がっていた。夫妻も発達障害の当事者。直美さんは「私自身も家族や友人には話しづらい悩みを第三者に聞いてもらい、すっきりした経験がある。とにかく話す場が必要だと思った」。

 そこで22年1月、オンライン上にメンバーが集まれる場を開設する準備に取りかかった。夫婦は元々、障害者の仕事や暮らしを応援するネットメディア「障害者ドットコム」も運営。このノウハウやクラウドファンディングで集めた資金で、3月に会員制のオンラインサロンを開設した。

 サロンの名称は「西沢先生のリワークっぽい会」で、事件で犠牲となった西沢弘太郎院長(当時49歳)の名前を借りた。現在、会員は約45人。元患者だけでなく、障害のある人やその支援者も参加でき、名前や顔を明かさずに話すことも可能だ。

 事件当初はクリニックでの思い出や、事件を受けた心境が話題の中心だった。診察室にある机がいつも書類で山積みだったことなど、西沢院長の人柄をしのぶこともしばしば。通院や服薬が途切れて体調が悪化しないよう、ほかのクリニックの情報も参加者で共有した。悲しみとの向き合い方を探るために別の事件の遺族を招いて経験を紹介してもらったこともある。

 ある日のサロンは、西沢院長とも親交があった心理カウンセラーを講師に招いて「心のお悩み相談会」を開催した。「人にどう思われているか気にしすぎてしまう」「この症状は障害が原因ですか?」--。参加者らは日ごろ抱えている悩みを順に相談し、講師は「頑張っているんですね」「集中力を高めるにはたんぱく質をとると良いですよ」など、一人一人に回答した。参加者同士でアドバイスし合う場面もあり、1時間半のサロンは和気あいあいと進んだ。

 事件から17日で3年となった。川田さんによると、参加者の中には当時とは違う仕事に就き、環境が変わったことで元気になった人も多いという。「傷ついた人が気軽に話せる場があることは大事。つかず離れず、細く長く付き合っていける『止まり木』のような場所として続けたい」と誓っている。【斉藤朋恵】

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