「ネコバスみたい」昭和レトロなボンネットバス、徳島で現役
毎日新聞 / 2024年12月30日 9時45分
レトロ感が漂う四国交通のボンネットバス。傷みの原因となる雨ざらしを避けるため、同社所有のバスで唯一、屋根付きの整備工場に駐車している=徳島県三好市井川町西井川の四国交通本社で2024年12月16日午後2時17分、植松晃一撮影
リベットが打たれたボディーに、年季の入った板張りの床、手回し式の行き先表示板――。ドアを手動で開閉するのは、紙製切符や釣り銭などの入ったカバンを肩から下げた車掌さんだ。日本三大秘境の一つ「祖谷(いや)」で知られる徳島県三好市を中心に運行されている四国交通(三好市)のボンネットバスに乗ると、まるで昭和20、30年代にタイムトリップしたような錯覚に陥る。
「ガラガラガラ」
一木加津雄(いちき・かずお)社長(49)が排気量6000㏄のエンジンを始動させると、大きな音と振動が車内に響く。いすゞ自動車製で、全長8・27メートル、全幅2・45メートル。ボンネットに加え、丸みを帯びた後部の外観は人気アニメ映画「となりのトトロ」に登場する「ネコバス」を連想させ、「可愛い」と若者から人気だ。
1966(昭和41)年に同社が購入した。業界では当時、エンジンを車体後部に収めて乗客が多く乗れる箱形バスに置き換わりつつあった。しかし山間路線が多い同社では、前輪の位置からボンネットバスの方が安全確認しやすいという理由で、製造中止を見越して初めて新車で4台を導入。三好市や同県東みよし町を中心に路線バスとして79(同54)年まで走った。
82(同57)年には、国指定天然記念物「大歩危(おおぼけ)」や祖谷などへ観光客を案内する定期観光バスとなった。車台が連番だったため、社内では「4きょうだい」と呼ばれたボンネットバス。同社に現在残っているのは「末っ子」で、他の3台は香川県の小豆島、北海道、愛知県で現役だ。
整備はかつて社内の整備士が担ったが、運転席のメーターは左右で大きさが異なるなど仕様はバラバラ。乗用車部品を流用した機器もあり、使える部品を探して工夫した様子がうかがえる。運転も大変だ。パワーステアリングはなく、ハンドルを回すのも力が要る。
常に雨ざらしだったこともあり、近年はさびなどの傷みも目立っていた。車内への雨漏りも頻発し、車掌がテープを持参して雨漏り箇所にその都度、応急措置をすることも。冬季に厳しい寒さとなる徳島県西部では道路の凍結防止剤を巻き上げるため、底面も塩害が広がっていた。
同社は2021年11月限りで運行を中止し、廃車の方針を決めた。ところが、同社が属する南海電鉄グループからクラウドファンディング(CF)で保存を図っては、との声が上がった。同グループの阪堺電気軌道(大阪市)では同年、腐食が進んだ1928(昭和3)年製の電車の大規模修繕費を募るCFを実施し、目標額の倍近い支援金を集めた実績があった。
2022年5月、四国交通が目標額700万円のCFを呼びかけると、2カ月半で約980万円が寄せられた。これを原資に、半年かけて車体やエンジンを修理。昭和時代の青、緑、卵色の外装も塗り直した。修復したバスの使途についてCFの支援者に尋ねたところ、一番多かったのは「あまり無理をさせないで」とバスをいたわる声だったという。
現在は乗客定員42人の仕様で、貸し切り運行やイベント出展のほか、年数回程度は路線バスとなる。遠方からファンが駆けつけることも多い。「出番」のない時は同社で唯一、雨を避けられる屋根付きの本社整備工場に駐車している。
維持費用はかさみ、「効率経営」には遠い。それでも手放さないのはなぜか。「地域の様子を見続けてきたバスで、地元の人も親しんできた。会社の象徴なんです」と一木社長。全国に残るボンネットバスでは珍しく、たまに路線バスとして走らせるのは地元に対するサービスだ。「ボンネットバスを見ると、町の人が喜んでくれる。今後も、みなさんに愛される使い方を目指したい」【植松晃一】
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