「フォークゲリラの歌姫」が見る新宿再開発 自由な空気は残るのか
毎日新聞 / 2025年1月1日 9時0分
年の瀬が迫った2024年12月下旬の夕方。人波でごった返す東京・新宿駅西口地下広場の片隅で、男女8人が平和を訴えるプラカードや布を掲げていた。そのうちの一人、大木晴子(せいこ)さん(76)は半世紀以上前からこの広場を見つめてきた。
1969年2月。西口広場では、ギターを抱えた若者がベトナム戦争反対を訴える集会「フォークゲリラ」を開いた。当時20歳だった大木さんは中心メンバーで、「フォークゲリラの歌姫」と呼ばれた。
ゲリラを囲む人の輪はやがて数千人規模に膨らみ、広場を埋め尽くした。警察は広場を「公道」と見なし、道路交通法違反を適用して取り締まった。開始から約4カ月後、集会は終わりを迎えた。
大木さんが再び西口で活動を始めたのは、イラク戦争開戦間近の2003年2月。毎週末、プラカードを掲げて立ち、平和を訴えた。23年春以降は不定期で立ち、国会前などでの活動と並行する。「あちこちから人が集まる新宿は他の場所より面白い」と語る。
「巨大迷路」打破へ再整備
巨大ターミナル・新宿駅には6社11路線が乗り入れ、乗降客は1日あたり約350万人と世界一の規模とされる。
ただ、高度経済成長期に建った駅ビルは老朽化が進み、駅の構造は複雑で「巨大迷路」とも呼ばれる。鉄道で東西が分断され、街の回遊性が低いとの指摘もある。
こうした状況を打破しようと、都と新宿区は18年に「拠点再整備方針」を策定。交流や連携が生まれるように、人が中心の街づくりを掲げた。46年度末までに駅、駅前広場、駅ビルが一体化した「新宿グランドターミナル」に再編する巨大プロジェクトだ。
線路の上に東西を結ぶ歩行者デッキを新設し、広場を設ける。西口の小田急百貨店跡地には、都庁舎を上回る高さ約260メートル(地上48階)の超高層ビルが29年度に完成する。
現在は営業中の京王百貨店の敷地には、40年代までに店舗や宿泊施設が入る地上19階のビルを整備する。
地上と地下の2層構造が特徴の西口広場は、地下駐車場を結ぶループ車路を撤去し、道路や車寄せの配置も見直す。地下広場など歩行者空間を広げ、人が集まってにぎわう広場を目指す計画だ。35年度の完成に向け、急ピッチで工事が進む。
「見栄えよりも自由や穏やかさ」
幾度もの開発で生まれ変わってきた新宿の街。その移ろいを見つめてきた大木さんは「1969年の西口地下広場は、集まって何かやろうぜという雰囲気があったから、フォークゲリラのようなムーブメントが生まれた」と振り返る。理想の将来像を尋ねると、こう語った。「見栄えだけでなく、自由な思いや声が響き、優しく穏やかな場所になってほしい。街や広場はみんなのもので、みんなで育てるものですから」【斎藤良太】
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