宇宙を漂うおにぎり シュールな動画を中高生が撮影
毎日新聞 / 2024年12月29日 12時0分
丸い地球をバックに、宇宙を漂う三角おにぎり――。
そんなシュールな動画を芝国際中学・高校(東京都港区)の生徒たちが成層圏で撮影した。「自分たちで考え、行動する」。5回にわたるプレゼンテーションを経て大企業の協力を取り付けるなど、計画から「打ち上げ」まで、生徒が主体的に動いたことで思いを結実させた。
高度約3万メートル
芝国際のSpaceS(スペースエス)同好会に所属する中高生20人は10月18日、静岡県南伊豆町の石廊崎付近からおにぎりの食品サンプルを搭載したバルーンを高度約30キロ(3万メートル)上空の成層圏に向けて飛ばした。
当時実施されていた、SNS(ネット交流サービス)上におにぎりの写真を投稿すると、協賛企業が途上国の子どもに寄付金を提供する「おにぎりアクション」に参加するためだった。
ヘリウムガスの充塡(じゅうてん)されたバルーンにつるした発泡スチロールなどで作製した箱に4台のカメラやGPS(全地球測位システム)機器、おにぎりの食品サンプルを搭載した。
そして、宇宙空間にほど近い「ニアスペース」(高度20~50キロ)から、青い地球と漆黒の宇宙を背景におにぎりの食品サンプルを撮影しようと試みた。
バルーンは成層圏の28・8キロまで上昇して撮影に成功した後、計画通り自然破裂。撮影機材は、「自分たちで探した素材をミシンで縫うなどして作った」(高校2年の笹田優希さん)というパラシュートで落下して伊豆半島沖に着水した。
そして顧問教諭らがGPS情報をもとに、その日のうちに船で無事回収した。
受け身から主体へ
「ニアスペース」にバルーンを飛ばすことはロケットなどより手軽で、日本では2010年代に盛んとなり、商品宣伝に利用する企業も出てきた。
同好会は、23年にも製菓会社の食品サンプルを成層圏で撮影するプロジェクトに関わったが、搭載物を入れる箱の作製以外はほとんど大人任せだった。
そこで当時高校1年(現2年)の中田涼介さん(17)が「今度は生徒主体でやりたい」と24年3月に計画を立ち上げた。
塾講師からかけられた「受け身のままだとAI(人工知能)に淘汰(とうた)される人間になりかねない」との言葉が根底にあった。
X(ツイッター)などで、過去に打ち上げに成功した人と連絡を取って、紹介してもらった専門家からアドバイスをもらった。
そして、高度250メートル以上に物体を打ち上げる際に義務づけられる国土交通省への事前の届け出をしたり、電波法に抵触しない形で機器を搭載したりするなど、準備を進めた。
大人にもヒント
ネックとなった資金面では、学校の目と鼻の先に本社がある日本電気(NEC)に協力を仰いだ。学校行事で同社を訪問したことを足掛かりに中田さんが計画を売り込んだ。
最初はNECの製品を打ち上げて宣伝することを提案したが、了承は得られなかった。
「相手が本当に求めているものを探っていった」という中田さん。NECのホームページをくまなく読み込むとともに、社員の話を聞きながら、提案を変えていった。
NECは24年5月から、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を支援する事業ブランド「ブルーステラ」を立ち上げていた。
NECの駒込郁子マネジャーは「自分たちで課題を見つけて取り組む姿勢は、ブルーステラで新しい価値を創造していくためにまさにNECがやろうとしていることに通じる。社員のヒントになると考えました」と振り返る。
プレゼンテーションすること5回。中田さんらは協賛獲得(金額は非公表)にこぎつけた。
もう一つのミッション
成層圏で撮影したおにぎりの食品サンプルの写真や動画は、11月にXに投稿されると表示回数が1万を超えたものもあった。
だが、中田さんたちには「おにぎり」以外にもう一つのミッションがあった。
「息苦しさを感じることもある世の中を変えたい」
そんな思いから、生徒や協力してくれたNEC社員の悩みや思いを記したアクリル板も成層圏に届けた。
アクリル板に刻まれたQRコードを読み取ると、悩みなどを書き込む「想(おも)いフォーム」が表示される。
フォームに書き込んだ文言は、まるでバルーンにつるされているかのような動画に表示され、高度をぐんぐんあげて雲を突き抜け、やがては宇宙空間に解き放たれるかのような映像に仕立てられている。
悩みと宇宙空間を対比することで、「目の前の小さなことにとらわれずに視野を広げて」という思いが込められている。【平塚雄太】
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