災害時の生活再建 専門家「支援制度はもろい」と指摘する理由
毎日新聞 / 2024年12月29日 12時30分
間もなく発生から1年を迎える能登半島地震の被災地では、ようやく住宅の再建に向けた動きが出てきています。災害で壊れた住宅を再建する時、行政による「公助」の制度を定めた法律があります。被災者生活再建支援法です。災害法制に詳しい山崎栄一・関西大教授は「生活再建支援と言っても、収入の減少に対しては極めてもろい制度」と見ています。山崎教授が指摘する制度の課題とは――。
阪神大震災で「二重ローン」問題
――なぜ支援法がつくられたのですか。
◆1995年の阪神淡路大震災の時に僕も含めて、ほとんどの関西人はここで地震が起こると思っていませんでした。だから、地震保険に入っていなかったのです。
それで被災して、壊れた家と、新しく建てることになる家の二つのローンを抱えるという「二重ローン」の問題が起きました。これが阪神淡路大震災の時のキーワードでした。
二重ローン問題は、被災者に対して過大な負担がかかっているということで、何らかの公的支援が必要なんじゃないかというのが運動として起こり、最終的にこの法律につながりました。
――公助による支援が誕生したんですね。
◆ただ、地震保険に加入していたら、被災時に破滅的な経済ダメージを負うことはないでしょう。基本的には「保険に入ってください」というのが私のスタンスです。
仮に、保険とか共済さえ入る経済的な余裕がない人もいるんだと言われても、住宅再建の全額を公的なお金で負担するのは、どうかなと思います。
経済的な余裕がないというのであれば、強制保険の制度にするという手もあります。
阪神淡路大震災が起こった直後は、地震共済制度で強制保険にしようかという提案もありました。これは、固定資産税から一定の割合をお金の原資として活用するという強制保険の制度です。
ですが、当時はこれを導入すると市町村の事務負担が重すぎるというので、立ち消えた。震災の時っていろいろなアイデアがいっぱい出たんです。
一般的に世の中にさまざまなリスクがある中で、住宅に限らず自分の財産をどう守るか、その対策をどうするかと考えると、基本的には保険でまかなっています。
自然災害も同じように、保険という制度で同じリスクを負っている人たちがお金を出し合い補償し合うという方法のほうが、僕は合理的だと思います。
――自助が基本ということですね。
◆地震保険では、資産価値の半額まで補償されるので、足りない半分をどうするかという話になります。
例えば全壊した家を再建する費用が1200万円くらいかかるとします。600万円程度は地震保険で補償されるとすると、残りの600万円は今の行政の制度だと被災者生活再建支援法で最大300万円が出るので、残額を埋め合わせるものとして、自治体が何らかの形でカバーするという制度設計はありだと思います。
自治体の独自制度に二つの長所
――自治体にも支援制度があるんですね。
◆被災者生活再建支援法が制定された直後から、都道府県は政府の支援では足りない部分を独自に支援するなど、いろいろなことをやっています。
自治体による独自の支援制度には、二つのメリットがあります。
一つ目は、ある自治体が制度をつくったら、制度のない地域の住民が「何でウチの自治体ではお金が出ないのか」という話になって、波及効果が期待できます。
二つ目は、それが発展して法律になっていくかもしれないという側面があります。
2000年の鳥取県西部地震では、県が市町村負担分と合わせ、建て替えに最大計300万円、補修に最大150万円を補助する全国初の公的支援を実施しました。
当時の政府は「住宅の再建に一銭も使うことはまかりならん」という方針でした。県の独自施策は、07年に成立した改正被災者生活再建支援法のきっかけの一つになっていると思います。
元日に能登半島沖で地震に見舞われた石川県が今回、支援策として車を買うのに50万円を補助しているのはユニークな取り組みです。車がないと生活できないからというので、支援しているのではないでしょうか。
一方、自治体によって財政状況が違うので、自治体間で制度にばらつきがあるのは仕方がない面もあります。
「行政はまだ視野が狭い」
――政府の被災者生活再建支援法の不十分な点や課題はどこにありますか。
◆この法律の実態は住宅再建支援法です。収入が途絶えたことに対する支援策ではありません。
本来、生活再建の支援法というのであれば、災害により収入がなくなった部分を何らか補って、何とか生活できるようにしましょうという支援があってしかるべきなのです。
収入が減った場合、通常の社会保障制度の枠組みでしか救済されません。雇用保険とか生活保護という形です。なので、生活再建の支援制度と言っても、収入の減少に対しては極めてもろい制度という現実があります。
また、復興基金を原資として支援されることはありますが、地盤の被害への支援もありません。家の損壊以外でも困っていることはあるので、そこに手を差し伸べる仕組みがほしいですね。
被災者の支援を少しずつでも良くしていこうという点で、こういう視点が欠けているのは問題だと思っています。行政は被災者に対する見方や支援のニーズに関して、まだまだ視野が狭いですね。他方、被災者や国民の側も必要な支援のニーズについて提言をしていくというスタンスが必要だと思います。【洪玟香】
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